一度の深呼吸の後、真田は動いた。左足で上下に刺激を与えながら、今一番敏感であろう箇所を右足の親指と人差し指の間で挟む。形容のしようがない悲鳴がして、恋人が大きく丸まった。危うく足が外れそうになった真田はつかさず髪の毛に指を差し込み、そのまま握って自分の側へと引く。髪を遠慮抜きに引っ張られた柳生は何故かあぁと高い嬌声を上げた。
「柳生、見えない上にやりづらい。」
「と…いわれ…ましても……」
「ほう…別にお前が良いなら俺はやめても良いが。」
「そっ…れは…」
止めた膨脛に涎が一筋落ちる。大方恋人の口の端から堪え切れず落ちたのだろうと思うが、些か残念な気分になった。
先程までは何も思わなかったが、今は多少この男に口付けたいと思っている。大して俺も人の事は言えないのだろうなと考えつつ、髪を更に根元から引き寄せ、耳の真上辺りで囁く。


「俺は素直なお前が好きなんだがな…」

柳生の身体が痺れているのが目に見えた。反動で上半身が上がったところで軽く体重を移動させ、肩を膝でベッドの足板に押し付ける。多分これでもう背中を丸められることは無いだろう。
再開前よりも激しく左足を上下動させる。右足は全ての指を使い先程よりも強めに先を握る。柳生の身体が小刻みに痙攣を始めた。
「お前は本当に変態だな。」
左足も指で抜き身の部分を食むようにして何ヶ所も点で刺激する。がっと柳生の首が折れ、足に冷たい唾液が幾重にも落ちてくる。潤滑油を増した足先は尚も軽快に恋人へ性的な刺激を送り続けている筈だ。よく分からんが、と真田は心の中で付け足す。
「こんな事の何が気持ち良いのか俺には分からん。まぁ、理解したくもないが……。」
粘着質な水音が繰り返される。柳生の顔が上がり、愉悦に歪んだ笑みが口元にあるのが見えた。一瞬腹立たしくなり目隠しになっている黒い布を剥ぎ取ろうかとも考えたが、今目が合って困るのは自分だと真田は思い直した。

足の向きを変え、両足の土ふまずで柳生自身を挟むようにする。これまでの刺激で耐えられなくなっていたのか、いつの間にか伸ばされていた足は膝立ちになり、カーペットの床に爪を立てていた手はその足首を掴んでいた。どれだけされたいんだ、と思いながら真田は最後の抽送を始めた。
胴体との付け根から限界点に到達しつつある先端まで。陰茎を挟んだまま膝を支点に滑らせる。動きが開始された直後、真田の耳には引き攣った喉の音が確かに聞こえた。
全身に巡る刺激に耐えきれないのか、柳生は再び顔を上げ苦悶の表情で口を開閉している。その様を真田は見つめていたが、不意に口付けたくなり、顎の下と髪をそれぞれ左手と右手で掴み、そのまま唇を重ねた。
声にならない悲鳴が皮膚越しに伝わる。引き抜かんばかりに舌を巻き付かせ、追い詰めんと足の動きを速める。と、その時柳生の全身の筋肉が硬直したのが分かった。

左足で残りが無いよう押し絞りながら右足で先の方を覆い、放たれた精をあまり撒き散らさないように誘導する。粘りを帯びた熱い精液が多少足の裏に浴びせられるが大して気にする事ではない。ようやく終わったかと真田は身体を横に伸ばし、ベッドのヘッドボードに置かれているティッシュケースを取った。
柳生は何度か深呼吸を繰り返した後、非常に緩慢な動きで目隠しを外す。完全に解けていない結び目を無視して呼吸を整える事に集中していると、首に黒い布が輪のまま落ちる。1人分横にずれ、ティッシュペーパーで足を拭いながらそれを見た真田はまるで首輪のようだと思った。
「これで良かったのか。」
「あ…は、い……じゅうぶん、で…す……」
「そうか。なら良かった。」
2、3枚ティッシュペーパーを追加し、様々な液体にまみれた足を清拭する。ある程度拭けたところで、真田はベッドから身を乗り出し床の汚れを拭う。染みにならんといいがと所帯染みた事を思うようになった自分に気付き、ほんの少し昔とは違う事を実感する。

ふと横を見る。ちょうど目の高さが合い、柳生と視線が交わる。頬が紅潮し、そことなく汗を滲ませた恋人は何度も見たことがあるとは言え、それなりに色を感じる。
「柳生、」
「は、い」
「この変態。」
「……もう無理です真田君。」
「その調子だと良さそうだな。」
拭き終わったティッシュペーパーを集めて丸め、ヘッドボードの足元にあるゴミ箱に投げ入れる。そこそこの重量を持った紙屑は放物線を描いて黒い円筒に消える。さて、と向き直ると隣にどさりと柳生がベッドの上に広がった。どうやら後始末ぐらいは自分でしたらしい。
「やっぱり良いですね、貴方にしていただけるのは。」
「別にするのは構わんがもう少し常識的な方法は無いのか。」
「この方法は私の中では充分に常識的なのですが。」
馬鹿かと吐き捨て、真田は後ろ手をつく。横を見ると目が合い微笑まれてしまったので、これ見よがしに溜息をついてみせた。
しかし柳生は微笑みを崩さないままむくりと起き上がったと思えば、そのまま真田の首に抱き付く。流されるままに押し倒され、やれやれと真田は隣の狐目を見た。
「何だ。」
「いやぁ…やはり真田君は素敵だなぁと思いまして。」
「さっきの事で言われるなら些か腹立たしいがな。」
こんな事に魅力を感じられても嬉しいとは微塵も思わん。真田がそう続けると柳生は何故か笑顔でその無表情をつついた。真田はまた頭が痛くなってきた。
「素直になったらもっと可愛いですよ真田君は。」
「可愛いと言われない事は俺にとっては喜ばしい事だ。」
「もう、天の邪鬼なんですから真田君は。」
無駄に甘い雰囲気を醸し出している恋人に背を向け、真田は壁を見る。真田くーんと少し残念そうな声が聞こえたかと思えば、背中に気配が近寄った。腰に手が回り、抱き締められたのが分かる。コイツは、と真田は不機嫌そうに顔だけで振り返る。
「俺は要らん。」
「分かってますよー…抱き締めるだけです。」
柳生が鼻先を項に差し入れる。一瞬背筋がぞくりとするがもう慣れた。全くと思いつつ真田がそのままで居ると、ぽつりと柳生が呟いた。

「でも言って真田君も付き合い良いですよね。」
「何年お前に付き合わされてると思ってるんだ?」
「もしかして真田君もああいう事が実は好きだったり…?」
「……柳生。」
返事の前に鳩尾へ肘を入れる。若干鈍い音がして後ろの人間が悶えているのが聞こえる。さなだくんと弱々しい声がしたが、真田は無視した。
好きな訳無かろう。内心で否定しつつ真田はもう何度目とも知れない溜息を吐く。そして尚も呻く柳生の声に、何でこんな奴を好いてしまったのかと頭を抱えることも、勿論忘れなかった。



[Fin.]


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