七月七日

「なぁ、イレイザー……飲み行かねぇ?」

いつもなら「断る」と即答する誘いだったが、今日は7月7日、そして名前は地方のプロから要請があって出張中、テンション八割減の同僚……。まぁ、急ぎの仕事もないし仕方ないと重い腰を上げる。

「……マイクの奢りな」
「ひっでぇーな。俺ってば誕生日よ!?」
「知ってる。おら、早くしろ。帰るぞ」
「うぉっ、ちょっ待てって!!」

話しながらパソコンの電源を落としていた俺に比べ、誘った張本人はがちゃがちゃと慌ただしくデスクを片付け始めた。そんなマイクを放って先に職員室を出る。気が付けば、随分と日が長くなったもんだなと廊下に差し込むオレンジ色に足を止めた。





「七夕って年に一度恋人達が会える日じゃねぇーのかよ!!そんな日に会えないって何!?しかも誕生日よ俺!?」
「……お前ら、ほぼ毎日顔合わせてんだろ」

ジョッキに口を付けながら、これ去年も聞いたな……と記憶の底に沈んでいた光景が微かに浮かんでくる。七夕という日にちのせいか、それに関連したイベントの司会をマイクが頼まれていたり、イベントごととなれば浮かれて良からぬ事を考える輩が多くなりその為に今年のようにチームアップの要請があったりなどで、ここ数年こいつの誕生日を二人が顔を突き合わせて祝えたことはないらしい。まぁ、もうガキじゃないんだし誕生日当日に祝ってもらわなくてもいいだろ……ていうか、この歳になって誕生日祝われるの嬉しいか?と思うのだが、この男にとっては違うらしい。

「かぁっー!!これだからまともに、恋愛してないやつは嫌だねぇ!!」
「……お前だってまともな、恋愛してねぇだろ」

名前と付き合うまで、来るもの拒まず去るもの追わずで、遊んでたこと知ってるんだからな。とじろりと睨むも全く気にする様子もなく喋り続けるマイクに溜息が溢れた。

「俺は今まさに、生涯最初で最後の運命の恋をしてるからいーんだよ。アンダースタンド??」
「……」

また大袈裟なことを言って……。なんていつもなら呆れるが「生涯最初で最後の運命の恋」その響きに偽りはなく決して大袈裟なんかじゃないとこの二人をそばで見ていると思わざるを得ない。学生時代2個下の名前に一目惚れをして、案の定顔を合わせる度に好きだの可愛いだの言っていたけれどプロを目指す俺達に恋愛をしている余裕なんてものはなく、二人の間には何もなくそれぞれの道に進んだ────はずだった。プロになって数年、少し気持ちに余裕が出来てきた頃に雄英で名前が働く事になり、再び顔を合わせた時のマイクの全身から魂が抜け出たみたいな顔は今思い出しても傑作だ。

「ほぼ毎日顔、合わせてても離れがたいもんかねぇ……」
「当ったり前だろ!?え?フザケてんのお前」

信じられないといった顔で俺を見るマイクから視線を逸らすようにして、漬物に箸を伸ばす。職場もプライベートも一緒ってどうなんだ。俺には無理だな。

「俺は名前ちゃんのことなら、四六時中見てられるね。いや、見てたい」
「……お前の願望は聞いてない」
「はぁぁぁぁぁぁぁあ。お前が名前ちゃんの話始めるから会いたくなっちゃったじゃねぇーのよ!!滅べ!!!七夕!!!! 」
「お前の誕生日も滅ぶだろ」

テーブルに突っ伏してジョッキに頬擦りを始めたマイクにそろそろお開きにするか……。と思っていると、テーブルの上に置いてあったマイクの携帯が鳴り出した。ダルそうに顔を上げて画面を確認したくせにそこに表示された名前を見た途端に意味もなく崩していた足を正し、グラスに入っていたお冷を飲み干してから電話に出た。

「あ、もしもし名前ちゃん?……なんか声疲れてねぇ?ん?大丈夫?なら、いいんだけどよ……。あんま無理すんなよ────俺?俺は、今イレイザーと三猿。いや、いいって気にすんなよ!一年に一回しか会えないなら、さすがの俺だって拗ねちゃうけどよぉ……」

いや、充分拗ねてただろ。滅びろとか言ってただろ。と思いながら席を立ち、大将に二人分のお代を支払い店を出た。外に出た途端、じっとりと水気を含んだ空気が身体に纏わり付く。さすがに1度切らなきゃ駄目だなと長くなってきた前髪をかき上げそのまま空を見上げると妙に明るくて、どうやらあちらさんは無事に会うことが出来たみたいだぞと柄にもなく一年に一度しか会えない恋人達のことを考えながら歩き出した。




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