私の悪魔は私に甘い(ナベリウス・カルエゴ)
「お前はいつも、ああなのか」
「え? ああ、って?」
「……酔うと他人との距離が近くなるのかと聞いている」
飲み会の帰り道、珍しく参加したカルエゴさんが当然のように送ってくれるというので二人で夜道歩いているときだった。今まで黙っていたカルエゴさんが不意に足を止め、そう言った。
「そんなことないですよ?」
「嘘をつけ」
「えー? だいたい自分じゃ分かりませんし、カルエゴさんだっていつも参加しないから分からないでしょう?」
「……」
「なんで今日は、参加したんですかー?」
「粛に。この酔っぱらいが」
「酷いなぁ、あ! もしかして、私が心配で参加したとか!?」
お付き合いを始めてから、初めて開催された飲み会だ。もしかして……なんて淡い期待を寄せる部分もあったけれど、相手はあのカルエゴさんだ。大方、ダリ先生にでも弱みを握られたんだろう。
なんてね────と誤魔化そうとする私の声とそうだ────と肯定する低い声が同時に月明かりの下に響いた。
「え」
「……なんだ」
「意外な優しさに不覚にも、ときめきました」
「……」
「えー!! こんなキュンとした気持ち抱えながら帰れません!! このままカルエゴさんのおうち行ってもいいですか!?」
「喚くな!! 来るな!! 帰れ!!」
「酷い……彼女なのに……」
分かりやすくシュンとしてみると、カルエゴさんは目を泳がせながら頬骨のあたりを爪の先で2、3度掻いた。付き合ってから分かったけれど、カルエゴさんは押して駄目なら引いてみろに非常に弱い。
「……その様子では、すぐに寝るだろう」
「それは、寝かせたくないってことですか?」
「バッ!!」
「ふふ、今日はぎゅってして寝てください」
「……拷問だな」
「マルバス先生に新しい拷問提案します?」
「やめろ、死んでもするな」
「カルエゴさんって、私が思ってるより私のこと好きですよね」
歩き出したカルエゴさんを少し早足で追いかけ、もう置いて行かれないように、その腕に腕を絡める。先の言葉に対してか、腕を絡めたことに対してかは分からないけれど、どこか満足気に鼻先で笑われた。その横顔が、かっこよくて悔しい。
「カルエゴさんのことメロメロにするなんて、ライム先生の代理でサキュバス誘惑学教えられるかも。次の悪周期がいつか聞いておこう」
「やめろ、死んでもするな」
酷いなぁと笑いながら、絡んだ腕に少し力を入れ足を止める。「なんだ」と怪訝な顔をして、こちらを見たカルエゴさんを強請るように見上げると、はぁと盛大な溜息のあとに口づけが落ちてきた。