lastkiss



「んん、っあ!!」
「うっ……はぁ……ん」

目の前が白く、ちかちかするような絶頂に耐えきれずぎゅうっとしがみついた背に爪を立てる。日下部は僅かに息を詰めた後、少し意地悪く片頬で笑い荒い息を吐き出した。

「あ……」
「ん?」

達した後、日下部は少ししてから気怠そうに取り外した避妊具の口を縛りソファの下に落ちていた下着を身に着け離れていく。もう少しその高い体温に触れていたかったなんてとても恥ずかしくて言えなかった。少しして換気扇を回す音と煙草の匂いが漂ってくる。身体を動かすのが怠くてソファに横たわったまま顔だけキッチンに向けると視界に映った換気扇の下で下着だけ身に着けて煙草をふかす姿に色気が滲んでいて、にやけそうになる口元を手で覆った。セックスした後に煙草を吸う日下部を見るのが好きだった。けど、そのせいですぐに離れていってしまう所は嫌いだった。

「見すぎだ。金取るぞ」
「辞めないの?煙草」
「辞めれるもんなら辞めてる」
「死にたくないくせに、煙草吸うって矛盾してない? 」
「……まぁ、矛盾してるな」

少し考えるようにうなじを指先でかきながら、換気扇に向かっていく煙をぼんやりとした表情で見つめていた。長年一緒にいるから分かる、多分これは考えてる振りをしているだけで何にも考えていない時の顔だ。いつどうなるか分からない職業だから別に病気のリスクを恐れずに好きなようにする────そんな相手なら別に何も言わない。けれど、刹那的な生き方を望んでいない日下部には少しでも健康に生きて欲しいという想いが前からあった。

「私はエッチした後に煙草を吸う日下部を見るのが好き」
「はぁ?何だよそりゃ。もう一回誘ってんのかよ」
「ううん」

トンっと、灰皿の縁に軽く煙草を叩きつけ灰を落としながらニヤリと笑う。軽い表情の口元とは対象的にすっと細められた目の奥には放出したばかりの熱が揺らいでいた。

「でも、煙草を吸うのに終わった後にすぐに離れていっちゃう日下部は嫌い」

さっきはあんなに恥ずかしくて言えなかった言葉が、いとも簡単に口から離れていく。少しの間、固まって灰皿に短くなった煙草を押し付けた日下部はずんずんと大股でソファの所までやって来て、横たわったままの私の顔を真上から覗き込んだ。

「……やっぱ誘ってんだろ」
「誘ってない」
「いーや、誘ってんな。ヤった後にすぐ離れてくのが寂しいから煙草辞めろって話だろ?全く、どこで覚えてきたんだよ。そんな誘い方」

明確に言葉にされてしまうと恥ずかしさに耐えられなくなって、顔を逸らそうとしたけれどむにぃっと両頬を摘むように寄せられ叶わない。

「篤也」
「ふぇ?」
「いい加減、名前で呼んでくれよ。そうしたら俺も煙草辞めるから」
「……」

恋人──としてより同僚──として日下部と呼ぶ時間の方が長かった私は未だに名前を呼ぶ気恥ずかしさを捨て去る事ができないでいた。今まで、それについて一言も言わなかった癖にこんな時に言うなんて狡い。

「ほら」
「……篤也 」
「……いいな、これ」

少し照れ臭そうに笑った後に、重ねられた唇は苦くて甘くて、このほろ苦さが混じったキスが最後だと分かっていたなら、もう少し味わっておくんだったなと翌日から口寂しさを棒付きのキャンディで紛らわせ始めた篤也を見て思った。




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