後朝



「ん……」

ゴツゴツとした何かに触れている感覚で目が覚めた。重たい瞼を無理矢理持ち上げて覗いた隙間からは逞しい胸板が見えて慌ててしっかりと目を開いた。少し上を見上げて逞しい胸板の持ち主を確認するとサラサラとした金髪の男が寝ていて頭が真っ白になった。え、誰。恐る恐るタオルケットを身に纏った自分の身体を確認すると分かってはいたけれど、やっぱり何も着ていなかった。やってしまった。そこで初めて酷く頭が痛むことに気が付いた。そして少し考えた後に思い出す。昨夜、私は七海と飲んでいた。

「……!?」

七海と飲んでいたことを思い出してから改めて隣に眠る金髪の男を見る。……まじか。七海だ。どうしよう。とりあえず、七海が起きないうちに逃げよう。そーっとベッドから抜け出して辺りを見回したけれど、七海のブルーのシャツとスラックスが落ちているだけで私の服がどこにもない。仕方なく、七海のシャツを羽織り探すことにした。

「……ない」

ここは恐らく七海の自宅なのだろう。あちこちに七海の生活感が残る部屋をくまなく探したけれど、どこにも見当たらなかった。望みは薄かったけれど一応……と最後に見に行った玄関には案の定、服はなかったけれど靴もなかった。え、私どうやって来たの?

「探しているのはこれですか」
「!?」

呆然と立ち尽くしている所に後ろから聞こえてきた声に慌てて振り向く。そこには下着1枚身に着けただけの七海が腕を組んで壁に寄りかかっていた。その手に持っていた紙袋の中身を覗くと、昨日私が着ていた服、下着、靴までご丁寧に入っていた。

「ありがと、え、ちょっと」
「返しません」

受け取ろうとするとひょいと高い所に掲げられてしまって、手を伸ばしても届かない。

「ちょ、悪い冗談やめてよっ」
「冗談なんかじゃありませんよ。昨夜約束しましたから」
「ご、ごめん……。私、酔ってて何にも覚えてないから、その約束無効にして!」
「名前さんは昨夜、酷く酔っ払って私にキスをし始めました。そして抱いてと言われたので、私はアナタが好きなので、この状態では抱きたくありませんとお断りしました」
「……」
「そうしたら名前さんは、私も七海のことが好きだから、抱いてと。朝になって覚えていないは通用しませんよと言っても大丈夫、分かったとしか言わなかったので合意だとみなして抱きました」

確かに、七海のことが好きだってところは嘘じゃない。嘘じゃないけど。学生時代に抱いていた淡い気持ちを今更伝えるのもどうなのかと仕舞っていたはずだった。こんな形で本人に伝わってしまうなんて……ん?

「え、待ってなんて言った?」
「抱きました」
「やっ、じゃなくて」
「?」
「好きなの?私のこと?」
「好きですよ」
「え、いつから」
「昔から」
「え、昔って」
「……とりあえず、お互いに服を着ませんか。もう、名前さんも逃げる気はありませんよね」

そう言って、それまでじっと私を見つめていた七海は気まずそうに視線を逸した。そこで、自分の格好が七海のシャツ1枚を羽織っただけだったことを思い出す。

「……うん。もう逃げない。逃げないからちゃんと教えて?七海の気持ち」

手を差し出すと紙袋を渡されそうになったので、空いている方の七海の手をぎゅっと握る。七海は驚いたように眉をあげ、そして少し安心したように息を吐いた。




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