添い遂げる純情



「え、今日って何か記念日だっけ?」
「いえ」

仕事を終え帰ってきた彼の手には赤、ピンク、白、オレンジ、黄色など色とりどりのガーベラが纏められた花束が握られていて思わず頭の中で日付を確認した。

「記念日以外に花を贈ってはいけませんか」
「そんなことないよ。嬉しい。ありがとう」
「それは良かった」

それから彼は、ほぼ毎回のように花束だったり、お菓子だったり、入浴剤だったり、何かしら小さなお土産を持って帰ってくるようになった。今思えば、その習慣が始まったのは呪術師に復帰したタイミングと重なっていた。今の職場を辞めて、呪術師に戻るにあたって彼は呪術師とはどういう仕事か、いかに危険かということを私に一つ一つ丁寧に説明してくれた。そして、だから別れてくださいと頭を下げた。それを私は駄目です。最後までそばにいますと突っぱねた。黙って私から離れていくこともできたはずなのに、彼はそれをしなかった。最後まで私達は明確な答えを出すことが出来なかった。

一緒に食事をする度に、映画を見る度に、キスを、触れ合いをする度に、仕事に向かう彼を見る度に

あぁ、これが最期になるかもしれないと思いながら過ごしてきた。

苦しい気持ちもあったけれど、私にとっては幸せな日々だった。

毎回持って帰ってくるお土産は全て消えてしまう物だと途中から気が付いた。それもきっと彼の優しさだったんだと思う。家の中にも最低限の物しか置かなかったのは自分がいなくなった後に私がそれらに囚われて苦しまないようにと────だから、クローゼットの奥底に仕舞いこまれた一通の手紙と小さな箱を見つけた時には少し腹が立ったぐらいだ。

「これが1番名前さんを苦しめる物になるとわかっていながら、私には捨てることができませんでした。どうか許してください」


ねぇ、建人さん。皺くちゃになって細くなってしまった私の指にはもうこの指輪は上手くはまらないの。すぐに抜け落ちてしまう。もう少しして、また会えたら新しい指輪を買ってくれますか。

「もちろんです」と聞こえた懐かしい低くて甘い声にポロポロと溢れる涙に蓋をするようにとろりと瞼を落とした。

title by icca様




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