いつかの約束は甘く、爽やかな



「あ、名前先輩ー!」

弾むような元気な声が聞こえ、振り向くとブンブンと千切れんばかりに手を振る灰原と相変わらずうんざりした顔の七海がいた。うんざりした顔標準装備かよ。

「お、お帰りいいなぁ沖縄!海とか入った!?」
「行くわけないでしょう」
「ホントだ全然焼けてないじゃん」
「ほぼ空港内にいたので焼ける要素がありません」
「で?」
「何ですがその手は」

空港内にいたとしても買えるでしょという期待をこめて、両方の掌をそれぞれ灰原、七海に向けて差し出す。

「もちろんありますよ!!ね、七海!」
「買っていたのは灰原だけでしょう」
「え、マジ?マジでないの七海?人の心も沖縄に置いてきちゃった?」
「……疲れたので先に部屋に戻っています」

まぁ、そうだよね……。任務で行ってお土産買ってきてくれるような男じゃないってのは知っていたよ……。みんなに内緒にしているけれど一応、私彼女だよ?彼女にもこんなもんか……と少しシュンとしたところに

「はい!名前先輩。紅いもタルトです!」

灰原のキラキラとした元気さが沁みる。そのキラキラをあの男にも少し分けてあげて欲しい。でも、キラキラした七海はそれはそれでちょっと嫌かもなんて我儘なことを思いつつ、灰原にお礼をして部屋に戻った。


「……?」

部屋に戻ると机の上にさっき灰原から貰ったお菓子が入った袋と同じデザインの袋が置かれていた。紅いもタルトが入った袋より一回り小さい袋の中を覗くと、そこには小さな箱が入っていた。

「……綺麗」

箱の中には、沖縄の海を閉じ込めたような淡いブルーのガラスで出来た小ぶりのピアスがあった。手に取り、光に翳してその綺麗さを暫く堪能したあと、居ても立ってもいられずに部屋を飛び出した。

「七海!!」
「……いつになったらアナタはノックを覚えるんですか」
「人の心沖縄に置いてきたとか言ってごめん!!人の心ちゃんとあった!!」

荷物の整理を終えたらしい七海は、私を見たあとに呆れたように溜息を一つ。

「あの場で渡したら、さすがの灰原でも気がつくでしょう。恥ずかしいから隠していたいと言ったのは名前さんです」

少し不満そうに眉間の皺を押さえながら、七海はベッドに腰をおろした。その隣に座り、顔を覗き込む。

「疲れた?」
「疲れました。癒やしてください」

そう言って伸びてきた指は真っ直ぐで、ほんのりとパイナップルの匂いがして思わず笑ってしまった。

「……何ですか」
「七海、パイナップル食べた?」
「……機内で灰原が買ったカットされた物をつまみました」
「指、パイナップルの匂いする」

不機嫌そうな真顔のこの男と陽気なイメージでトロピカルなパイナップの組み合わせがおかしくて一人でケラケラと笑っていると、不意に乱れた髪を一房耳にかけられ、貰ったばかりのピアスをつけた耳が空気に触れた。

「……似合う?」
「誰が選んだと思っているんですか」
「私も行きたい沖縄」
「いつか────二人で」

そう言って触れた唇からも、甘くて爽やかな匂いがした。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -