ハニービーンズは味覚音痴



ワードパレット
空っぽの瓶、ナイフとフォーク、いただきます

夏の盛りに駅前の八百屋でほぼタダみたいな値段で売られていたトマトを買い込み、台所に二人並んで汗をかきながら、せっせと仕込んだトマトソースがもう残り一つになってしまった。
肌寒くなってきた近頃、空っぽの瓶を真っ赤に染め上げていったあの暑い夏の日が懐かしい。

久しぶりに重なった休日の前夜、ワインと少しのつまみをお供に映画を見た昨夜、途中から始まったじゃれ合いで内容はほとんど覚えていなかった。休日本番の今日はいつもより随分遅く目を覚まし、溜まっていた洗濯だったり掃除を手分けして一段落ついた所だった。

「トマトソースの最後に、アラビアータを選びましたが」

オリーブオイルに沈む鷹の爪を見つめる私の隣でニンニクを刻んでいた彼がその手を止めずに話し始めた。

「ニンニクのことを忘れていました」
「今、目の前にあるけど」
「違います」
「ん?」

何?何かの謎々?妙にまわりくどい話し方をするなぁ。少し焦げ茶色になった鷹の爪を取り出し、小皿に乗せる。

「……名前さんこの後、キスのご予定は?」

ニンニク刻んでいた包丁の音が止み、あぁそういうことかとなんだか納得して笑ってしまった。

「……なるほど」
「えぇ」
「それは、建人さん次第ですね……」
「……私次第」

隣をちらりと見上げるとふうと少し息を吐いた後、丁寧に手を洗い始めた。そしてタオルで拭いた後にカチッとコンロの火を止め、ニンニクの後に切られるのを待っていた塊のベーコンを冷蔵庫に戻す。その様子を黙って見ていると、ふわりと身体が宙に浮いた。

「パスタを茹でる前で良かったですね」
「……おなか空いたんだけど」
「すみません。もう少し我慢してください」

互いの睫毛が触れ合いそうな距離で熱い吐息が触れる。

唇を触れ合わせたまま横を通り過ぎたダイニングテーブルの上には一足先に並べられたナイフとフォーク、スプーン達がいただきますの時を待っていた。


ワードパレット by もきゅ(@ACarte22)様




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