クリームソーダ



クリームソーダにシロップ漬けのさくらんぼを添えた人のセンスに拍手を贈りたいと常々思っていた。
小さな泡の粒を纏った濃い赤色は鮮やかなグリーンの中によく映える。メロンソーダの緑、バニラアイスの白、さくらんぼの赤。こんなに心を擽る色彩が他にあるだろうか。

「名前さんは昔からそれが好きですね」

向いの席でアイスコーヒーを飲みながら七海が言った。補助監督の子に少しだけ嘘のお迎えの時間を伝えて任務終わりに喫茶店に入るのが七海と組んだ時のお決まりだった。

「任務終わりの一杯はこれに限るよね」
「クリームソーダを飲む大人を他に見たことがありません……と言いたい所ですがもう一人いましたね」
「あはは、五条もだねぇ」

飲み会の席では私は五条と違ってちゃんと、ジョッキでビールを飲みますよ。なんて笑いながら溶けかけているバニラアイスを先がスプーンみたいになったストローでつつく。このストローを考えた人にも拍手を贈ろう。私の拍手が欲しいかどうかはわからないけれど、とにかく今は気分が良かった。こうして七海と任務に出ること自体、めっきりと機会が減り、クリームソーダを飲むことも久しぶりだった。

一人でも飲めばいいじゃないかと思われるかもしれないが、そういう事ではなかった。

七海と無事に任務を終えて飲むからこそ意味がある。
お互い生きて帰るためのルーティンワークのようなものだった。生きて帰ってきて喫茶店でクリームソーダを飲む。ここまでがセットだ。

「そう言えばさ」
「はい」
「これ、」

その実と同じく真っ赤に染まった茎をグニグニとストローでつつき、お馴染みの質問をする。

「結べる?」
「……恐らく」

くだらないとでも言うようにため息をつき、ネクタイの結び目に人差し指を差し込み少し緩めながら七海は言った。

「へぇ、じゃあ。ちゅう上手いんだ」
「……」
「わらしは、むすへない」

ぽいと口の中に放り込んだそれを舌先でつつき試みるがどうやったって無理そうだ。ちゅう、下手なのかなぁ私。

「試してみますか」
「え?」
「上手いかどうか」

この男は真面目な顔をして時折、五条みたいな軽口を叩く。最初の頃はどきりとしたけれどもう慣れてしまったよ。いったい何時になったらお互い素直になる日がやってくるのだろう。

「そうだねぇ……試してみようか……」

いい加減もう少し進展してもいいかもしれない。
シュワシュワと音を立てる小さな泡が弾けて消えた。





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