タダノオトコ



「生えないと思ってました」

シーツに包まり、見つめ合う。さっきまで全てを曝け出していたというのに、ただ見つめ合うだけで照れくさいのは何でだろう。私の言葉に塚内さんは、ん?という顔をした後に「ああ、これか」と口元にうっすらと生えた髭を撫でるように手を当てた。長期間追っていた事件が解決したらしく、その足で私の家に来てくれた恋人は前に見たときより、少し草臥れて見えた。見慣れない無精髭は妙に色気があった。塚内さんの珍しく切羽詰まった感じも相まって、いつもより興奮してしまったのは秘密にしておこう。

「いつも、つるんとしてたから」
「髭ぐらい生えるさ。普通のおじさんだからな俺は」
「おじさんっぽくないですけどね」

髭があると多少は年相応に見えるけれど、普段のつるんとした塚内さんはとても若く見える。おじさんとは言い難い。お腹だって引き締まって出てないし。

「そうか? 結構中身はおじさんっぽいこと考えてるよ」
「腰痛いなーとか?」
「それは結構しょっちゅう。事務仕事続くと尚更」
「疲れ取れないなーとか?」
「うん。悲しいことに」
「朝早く起きちゃうなーとか?」
「ははは、さすがにそこまでじゃないな。まだ」
「……今日は何色のパンツ履いてるかなーとか?」
「……」
「……」
「……」
「すみません。おじさんに対する偏見が過ぎました」
「いや、強くは否定できないな」
「え」
「……もっと、生々しいこと考えてるけど」

生々しいって何だろう。聞きたい気もするけど、聞かないほうがいい気もする。悩む私の隣で塚内さんは生々しいことの具体例を考えているのか、髭を撫でていた手で口元を覆いながら視線を宙に彷徨わせている。太いゴツゴツとした指が視界に入り、この指がさっきまで私のナカを掻き乱していたんだと思うと、まだ冷めきらない熱がぶり返すようで、バレないようにそっと足を擦り合わせた。生々しいってこういうことか、と納得して指から視線を上げると、いつの間にかじっとこっちを見つめていた塚内さんと視線がぶつかり、どきっと心臓が跳ねた。

「疲れてる時とか、そうやって感じてる名前の顔を思い出して抱きたいなと思ってた」
「っ、」
「な、もう一回、いい?」

こういう時に、じっと見つめてくるのズルいと思う。目の下の濃い隈が色っぽくて、でも心配で「……身体は、大丈夫ですか?」なんて色気の欠片もない返事をしてしまった。それに対して、微笑むのもズルいと思う。

「おじさんだけど、そのぐらいの体力はまだあるよ。ってこれもめちゃくちゃ、おじさん臭いな」
「おじさんじゃないです」
「ありがとう」
「ん、っ、」

首筋に唇が触れると、それだけでいつもと違う肌の感覚にぞくりと背筋が痺れる。

「気になる?」
「いつもとっ、ん、違うっ」
「名前のうちにも、髭剃り置いておこうか」
「……やだ」
「なんで?」
「……」
「気に入ったんだろ、これ」

そりゃあ、充分な睡眠と栄養が行き届いた状態の塚内さんの方がいいに決まってる。けど、ちょっとこの草臥れた姿を見てしまったら、たまにはこっちも見たいななんて思ってしまう。もちろん安全な状態が大前提だけど。

「いつもより乱れてたもんな」
「なっ、そんなことっ」
「いいよ。もう一回、確かめるから」

ゆっくりと背骨の数を確かめるように大きな手が触れていく。「いつもの、方がっ、安心します」そう言いながら首に腕を回すと「そうか」と少し笑った後に、ざりっといつもと違う感覚が肌を撫でていった。







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