午前二十六時濃紺を抱きしめた英国の洋館に、 ちいさな嘘を食んだふたつのいのちが在った。 まるで御伽噺のようだけれど、 きっとハッピーエンドは期待できないだろう、 あまりにも残酷ねと呟いてちいさく嘲笑った。 彼が奇麗だといってくれたこの純白のドレスも、 呼吸するゆびさきも穢れたふたつのひとみさえ、 なにひとつ残ることなど無いのだろうと思った。 わたしが彼を赦さないようにせかいもわたしを赦さない筈だから。 アンティークゴールドのつま先がくるくると踊る中、 わたしの其れだけが煌煌とひかる赤。 見慣れてしまった筈の赤は麗人たちの中で毒々しい。 「 」 彼のテノールがわたしのなまえを呼ぶ所為で呼吸さえもくるしい。 其れほどまでいとおしいという熱情を知ったあのひ、 冷えたくちびるのでたらめさに惹かれたあのひから、 今宵のわたしの運命は決まっていたのかもしれない。 「こんばんはティキ」 わたしがなまえを呼んだ彼は奇麗な紳士服を宛がわれた魔物。 このひとは何時だって人間とおんなじように微笑うから、 わたしは彼が微笑うのをみる度にまたなにかを失うのだ。 彼を愛する為にまたなにかを捨てなければいけなかった。 彼はわたしのめのまえに跪くと右手にくちづけて言った。 「ようこそ悪夢へ」 此処に " いきているもの " はものは俺たちだけだと。 麗人たちは飽きもせずに機械的にステップを踏む。 わたしはなんだかとっても愉しくなってしまって、 ひさしぶりにおおきなこえでわらった。 「もうあそこにはかえれないわ」 「哀しいのか?」 「かなしいのとはまたちがうの」 「じゃあどうして泣く?」 彼はわらっているわたしのひとみから溢れるなみだを、 ゆびさきで掬い取ってちろりと舐めた。 覗いた舌の赤はきっとわたしの罪の色。 「おねがいティキわたしを置いていかないで」 ティキ、…ねえ。そう溢せばああと彼は退屈そうに答える。 抱きしめた首筋からはわたしのしらない香水の匂いがした。 「もうわたしはエクソシストじゃないわ。 永遠が死ぬまできっとあいしてる」 きっと彼は俺もあいしてるなんていってわらうのだろう。 其れがどうしようもなくくるしくて痛い事を知っている。 わたしは背伸びして其のうそつきなくちびるに噛付いた。 かつんとハイヒールの踵が鳴いて、 嗚呼もうわたしはもどれないのよ 突き落とされた 墜ちたわたしを拾い上げるのも自分自身だと知って尚、 這い上がれなくなってしまったら其のときにはてを貸して頂戴。 嗚呼狂おしい程にいとしいひと(貴方を赦さないわ)、 20120405 曰はく、さま(企画サイトさま)に提出させて頂きました。 ティキさんをかくのも企画参加も初めてだったのですが、 理解されない恋っていうのもありかなあと思います。 ありがとうございました。 |