手掛かりはないに等しい。蜘蛛の糸にすがるような、たとえどんな些細なことでも手に入れたかった。
時任は沙織に言った。
自分を知りたいのだと。
久保田と出会う前の記憶がない。なぜ右手が獣化しているのかわからない。
――逃げたくないのだ。と
No nameは続けた。
犠牲者は増えるばかり。
その手の人たちはすぐに沙織を見つける。
私たちにどんなことでもいいから教えて。その方が警察も貴女のことを保護しやすいから。
しかし、No nameたちの思いは沙織には届かなかった。
沙織は、現実を受け止められなかった。
みんなを拒絶した沙織は心を閉ざそうとしていた。
久保田たちはこれ以上ここにいても溝を深めるだけだと判断し部屋を出た。
「――行こう。」
「じゃあね…沙織ちゃん。」
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