紅孩児は四人を睨み付けて怒鳴った。
「こんな所で何をしている!!」
「今の、お前が助けてくれたの?サンキュー!!」
「勘違いするな!こいつがたまたま倒れていたからだ!」
紅孩児が示した先には、独角兒に支えられている延朱がいた。
「延朱……!?ここで待っていたんですか!!」
「――おい、八戒!?」
防御壁を作るために気を使いすぎた八戒は、激しい目眩を起こしてその場で倒れそうになった。
それを支えたのは悟浄だった。
「――カッコつけて無茶すんじゃねーよこのバカ!」
「すみませ、」
「俺が、みじめだろォが」
見上げた悟浄の顔を見て、八戒は驚く。悟浄の瞳には怒りの色が混じっていた。何もできない自分に悟浄は苛立ちが募っていたのだ。
八戒は悟浄の思惑がわからず、黙ってその瞳を見つめた。
悟浄は紅孩児たちに向きなおる。
「おい、延朱は大丈夫なんだろォな!?」
「当たり前だ……と言いたいところだが、かなりやばいと思うぜ。熱は上がりっぱなしだし、今は意識もねぇ」
「三蔵も、妖怪の毒にやられてヤベぇんだ!!あの、薬使いの姉ちゃんいないのか!?」
――今は敵でもなんでもよかった。ただ大事なモノを守れるなら。
悟空は切迫した声で紅孩児にすがった。しかしその声は空しく砂漠の風と共に消えていった。
「悪いが今日は八百鼡はいねェ。お前らこの砂漠の妖怪に会ったのか?」
「もう死んだけどな。ってお宅らもしかしてここに経文を探しに来たのか?だとしたら無駄だと思うぜ。全部砂の中だ、掘り起こすしかねェよ」
独角兒の言葉に悟浄が返す。
それを聞いて紅孩児は焦りを隠せないでいた。三蔵一行の件をはずされた途端、一行とハチ合い、さらに命令された経文奪還は砂の中に埋まってしまい、ほとんど不可能な状態だった。
このままでは何も成果がないまま帰る事になる。それではまたいつものように玉面公主や変態博士に何を言われるかわからない。それ以上に母の蘇生が遠のいてしまう。
目の端にあるものが移った。大事に悟空に抱かれている傷ついた三蔵と、苦しそうに息をしている延朱だった。
経文も一つ、それにコイツを連れて帰れば――
「――おい!どうする気だ悟空!?」
紅孩児が思案している間に、悟空は黙って三蔵を抱えた。
「三蔵おぶってく」
「バカ猿が!この炎天下の中を何キロもか?無理だ!」
「だってしょーがねーじゃん!!紅孩児、早く延朱返せよ!」
「無茶です悟空!貴方一人で三蔵も延朱も連れて行けるわけがないでしょう!?」
「時間がねぇだろ!?ジープだって使えないし……だけどッ!!三蔵も、延朱も死なせねぇッ……!!」
悟空の必死な姿に、紅孩児はハッとした。
『大事な物は、手放しちゃダメだよ』
また、あの男の言葉が頭の中で木霊すると同時に、そして大切なものが浮かぶ。
大切な人、大切な人の笑顔、大切な自分の居場所。それを守る為には、どんな事をしてもかまわない。
紅孩児は今まで迷っていた自分を完全に断ち切った。
――もう、後戻りなんざできない。
「待て、悟空」
雰囲気の変わった紅孩児に独角兒は、紅孩児の言葉を黙って聞く。
「向こうに俺達が乗ってきた飛竜がある。それを使えば簡単に近くの街まで行けるだろう。貸してやっても構わん。ただし――俺を殺せたらの話だ」
紅孩児は身にまとっていたローブを脱ぐ。
「俺達が勝てば、魔天経文と延朱をもらう。貴様らが勝てば飛竜は貴様らの物だ――決着を、付けよう」
「紅孩児……?」
紅孩児の燃えたぎるような瞳に、悟空は戸惑うしかなかった。