ギラギラと照りつく太陽の下、五人は砂漠を歩き続けていた。背にしていた町は既に見えなくなっていた。暑さとだるさでどのくらい歩いたかわからない悟空は、汗を拭いながら言った。

「なー、本当にここ?何もないじゃん!」
「あの男の子が北北東に五キロと言っていたから、この辺りの筈ですよ」
「延朱ちゃん、ローブ取らなくて正解だったな。風のせいで口ン中砂まみれだわ」
「――そうね」

 時たま吹く風のせいで口に入った砂を、悟浄は唾と共に吐き出した。延朱は俯いたまま言った。

「つーかよ。三蔵を食べたっつー妖怪の居城は砂の中なんだとさ」
「ええ!じゃあどっから入りゃいいんだよ!?」

 悟浄の言葉に、悟空はうなだれる。辺りを見回している三蔵の肩に、悟浄は腕を置いて言った。

「大体三蔵よォ、何でまた妖怪に会いにきたわけ?」
「……その三蔵法師は連れ去られたと聞いた。もしそいつが本当に食われていたのだとしたら、三蔵法師が守る筈の転地開元経文のどれか一つがまだここにあるかも知れん」
「牛魔王サイドは経文を集めているらしいですからね」
「ああ。奴らの手に渡る前に見つけられれば」

 しかしこの砂海原では簡単には見つけられないだろう。四人は広がる砂を見回していた。

「――……っかい」
「延朱?どうしたんで、」

 不意に、八戒の腕を延朱が掴んだ。しかしすぐに掴んでいた手は離れ、力なく砂の中に倒れこんだ。

「延朱!?」
「なッ!?延朱、どうした!!」

 八戒は倒れた延朱を抱き上げて、頭にかぶっていたローブをめくった。
 延朱の顔は真っ赤に染まって、ぜえぜえと荒い息を吐いていた。延朱の額に手を当てると、考えられない程の熱を持っていた。

「……すごい熱です」
「えッ!?」
「こンの馬鹿チワワ!なんで言わなかった!!」
「ごめ、なさい……皆に心配させたく、なく、て」

 息をする度にひどく枯れた声を出す延朱に、体調が悪い事を黙っていた事に対しての苛立ちと、怒鳴りつけた自分の愚かさに三蔵は舌打ちをした。

「――かなりまずい状態です。さっきの町に行って、事情を説明して延朱だけでも休ませてもらいましょう」
「私は大丈夫だ、から……」

 桃色の唇が震えながら笑った。目の焦点がぶれているせいで八戒の顔がよく見えない。延朱が瞳を細めると長い睫毛が揺れた。
 その弱々しい姿に、四人は苛立ちを抑えきれない。

「そんな嘘、見りゃ誰だってわかるだろォが!たまには甘えろ、馬鹿野郎が!」
「そうだよ、延朱いっつも人の事ばっかり考えてるじゃん!たまには自分の事も考えっての!」

 本気で怒る悟空と悟浄に、延朱は目を丸くした。
 自分が思った以上に皆に想われている事に気付いた延朱は、思わず目頭が熱くなった。

「――――ごめん、なさい。八戒、悟浄、悟空。三蔵、迷惑かけて」
「ぬかせド阿呆。治ったらぶっ叩いてやる」
「……うん」

 そう言って延朱は張りつめていた糸が緩んだように気を失ってしまった。
 八戒は延朱を抱き上げると立ち上がった。

「それじゃあ一旦戻りましょう、」
「そうだな」

 四人は町の方角へと歩きだそうとした時だった。

「うわッ!?なんだ、これ」
「悟空!!何やっ……!?」

 悟空の足が砂に埋まる。引っ張り出そうと悟浄が近付くが、その足がズルズルと砂に埋まっている。

「二人とも――ッ」

 八戒と三蔵の足元も、まるで蟻地獄のように砂の中に引きずり込まれていく。

「罠か……!」
「その様ですね……!ッ、ジープ!延朱を引っ張って!」

 八戒は抱いていた延朱を身体が埋まる直前に砂の上に寝かせた。ジープは延朱のローブを足で引っ張る。幸い延朱を置いた場所は砂が崩れる事がなく、八戒は一瞬安堵する。
 しかし自分の身体はどうにもする事ができない。

「――延朱を連れて町に、ッ」

 八戒は言い終わらない内に砂の中へと消えていった。





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