「いやぁ助かりましたー」
「よく旅の人が、ここの砂漠に迷い込むんだよ。この子に会ってラッキーだったねェ」

 八戒は宿の主人に深々と頭を下げた。主人は笑いながら少年の頭を撫でた。どうやら二人は親子のようだった。

「失礼ですが、何故この様な場所に村が……?」

 八戒はローブを取りながら訊いた。地図ではもっと大きい町が記されていたが、着いた町は本当にこじんまりした町だったのだ。少年を見つけていなければこの町に着くことはできなかっただろう。

「ああ……少し前まではここも立派な町だったんだがね。一年前から急激に砂漠化が進んで、飲み込まれちまったんだ。ここに残ってるのは移住しそびれた連中さ」
「成程な……」

 桃源郷の異変がこんな形でも現れているという事か。三蔵は牛魔王の蘇生実験が影響を及ぼしている事に気付く。考えながら三蔵はローブを脱いだ。途端に少年と主人は青ざめる。

「あッ……!!」
「その服装……まさか、まさかあんた "三蔵法師" か!?」
「どういうことだ?」
「――悪いけどウチには泊められねえッ。他所をあたってくれ……!!」
「はぁあ!?オイちょっと……」

 そう言って主人は五人を宿の外に追い出すと、キツく扉を閉ざしてしまった。

「どーなってんの?」
「俺が知るか」

 悟空は三蔵の顔をじっと見つめた。当の本人も今の事態を飲み込めておらず、悟空の視線に苛立っていた。

「――何か知ってるみたいよ」

 八戒の腕の裾を、ローブを脱ぎ損ねた延朱が引っ張った。延朱の目線の先には少年が難しい顔をして黙って立っていた。

「君、何か知ってるみたいだね。良かったら話してくれないかな?」
「……一年くらい前、まだこの辺も町の一部だった頃、三蔵法師様が来たんだ。お兄ちゃん達みたいに旅の途中で立ち寄っただけなんだ。それでも、偉いお坊さんが来たって町をあげて迎えたんだけど、その噂を聞きつけた砂漠の妖怪が三蔵様を喰いにやって来たんだ……」
「何でわざわざ "三蔵" を喰いに来んだよ。三蔵って美味いの?」
「お前が言うとシャレになんねェぞ、ソレ」

 悟空は目を爛々と輝かせて三蔵を見た。その目の輝きに悟浄は思わず呆れる。

「……前に闘った蜘蛛女も言ってたな。"徳の高い坊主の肉を喰らうと寿命が延びる"――それが妖怪達の間での言い伝えだと」
「つまり、最高僧 "三蔵法師" は妖怪にとって最高の漢方薬みたいなモンですね」
「オイオイ、それってマジな話?」
「さぁな、生憎喰われてやったことがないんでわからん」

 悟空の頭の中だけの話だと思っていた悟浄はあっけに取られた。

「それで、その "三蔵" はどうなったの?」
「お付きのお坊さん達が必死で妖怪と闘ったけど、全然、歯が立たなくて結局、三蔵様は拐われちゃった。その後は妖怪もおとなしいけど……それ以来、砂漠が広がり始めたんだ」
「じゃあ、アッサリ喰われちまったってか? "三蔵" なのに?」
「"三蔵" だからって鬼の様に強いとは限らないでしょう」
「きっとちゃんとした真面目なフツーの 『三蔵』だったんですよ」
「「あー成程」」
「何が言いたい」

 八戒の言葉にすんなりと納得して手を叩く悟空と悟浄に、三蔵は青筋を立てる。

「私たちは鬼しか見たことないものね」
「「確かにー」」
「殴るぞ」

 今度は延朱の言葉に納得して二度も手を叩く悟空と悟浄に、三蔵は更に青筋を立てた。

「俺達が居ると、またいつ妖怪が襲ってくるかわかんねーもんな。それならさっきの村人達の態度もうなずけるぜ」
「……ごめんね。本当は、皆いい人達なんだ」
「しょーがねーじゃん、気にすんなって!!」

 しょんぼりした顔で落ち込んでいる少年を悟空は笑って励ました。

「それじゃあ、僕らは早々に退散した方が良さそうですね――どうかしましたか、三蔵?」
「ちょっとな……おい、子供」

 俯いていた少年は顔をあげて三蔵を見上げた。三蔵は真面目な顔をして少年を見やる。

「え?」
「その "砂漠の妖怪"の根城が何処かわかるか?」
「えーと、大体は……」
「よし案内しろ」
「――おい、ちょっと待てよッ。妖怪退治にでも行くつもりか? 正義の味方じゃあるまいし。わざわざこっちから出向く必要ねェじゃん」
「そうだよ。危ないじゃんか!!」
「―――何か、考えがあるんですね、三蔵?」
「……まぁな――」

 三蔵はそれだけ言うと黙ってジープに乗り込んだ。
 三蔵の思惑に八戒は気付きながら、少年に地図で妖怪の根城を教えてもらうと五人はその場所に向かったのだった。





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