***7***


「これにて閉廷」

 判事は閉廷を宣言して小槌を打った。重苦しい雰囲気の中、帽子を片手に持ったまま誠意の欠片もない返事をした虎徹の声を聞いて、バーナビーは早々に法廷から退席した。

「なあ、なんでお前が怒ってんだよ。俺の問題だろ、」
「僕の問題でもあるんです! あんな判決、コンビとしてマイナスポイントですよ」
「ポイントなんて関係ねえだろ!」

 今日は虎徹がヒーローとして、今までに起こした施設物破損についての判決を聞く為に二人は裁判所に来ていた。
 内容は散々だった。バーナビーほんの少しでも同情できる所があるかもしれないと思っていたのだが、概要を聞く限り反論の余地もなかった。そして、確実にマスコミに批判されるであろう判決が下ったのだった。
 さらに、バーナビーの苛立ちは強まるばかりだった。理由は勿論後ろから着いてくる虎徹のせいだった。あれだけ高額な賠償金の支払命令が出たというのに、全く反省の色が見えないどころか、自分のやった事を善しとして取っているからだ。

「俺らはなあ、あくまで市民の為に、」
「いい加減にしてください!」

 堪忍袋の緒が切れて怒鳴るバーナビーに虎徹は驚いて肩をすくめた。
 怒りに任せて大きな声を出したせいでバーナビーは頭にガンガンと打ち付けるような痛みが響いた。二日酔いだった。虎徹にはばれないようにこめかみに指をあてて、強烈な頭痛が去るのを待った。

「――コンビ組んでからずっと我慢してきたんですけど、もううんざりなんです。貴方のお節介」
「お節介?」

 チラリと後ろを見ると、何のことだかさっぱりだと、虎徹は首を傾げて言っていた。

「市民を守る為とか言って、結局建物を壊しただけですよ? 余計なお節介じゃないですか」
「そりゃ、今回たまたま……」
「いつもですよ!」

 目線を泳がせて頬を掻く虎徹に、静まりかけていた怒りがまたこみ上げる。バーナビーは振り返って虎徹を指差した。

「僕のプライベートにも、ちゃんと飯食ってる? とか口つっこんできて!」
「そりゃ、別にいいだろ!それにちゃんと食べてんだろう? シシーちゃんいるんだし」
「シシーといえば、貴方シシーに変な事吹き込んだでしょう!」

 この人が変な質問をしたせいで、昨日の夜はひどく恥ずかしい行動をしてしまったし、今朝起きてみればシシーと一緒に寝ていた。 恥ずかしさのあまり、今日は顔がまともに見る事ができず、朝食も食べずに家を出てしまった。さらに言ってしまえば、頭が割れるように痛い。
 最後のは完全に八つ当たりであるが、そんなのしった事ではない。

「へ、変な事ってなんだよ! 俺はシシーちゃんにお前の事が好きかって、聞いただけじゃん!」

 その質問を昨日の夜にした時に、シシーは好きだと言ってくれた事も思い出してしまった。バーナビーは顔が火照っていくのがわかり、虎徹に顔を見られないようにくるりと背を向けた。

「で? そういう、お前はどうなのさ」
「は?」
「バニーはシシーちゃんの事好きじゃないの?」
「それは、」
「シシーちゃんの事嫌いとか、あんな人どうでも良いんです、とか思ってるわけ?」
「そんなわけがないでしょう!?」

 どうでも良いわけがない。嫌いなわけがない。
 一緒にいたくて、傍にいて欲しくて、声を聞いていたくて、触れたくて。
 バーナビーは、その感情のがどういうものなのかわからないせいで苛立ちがつのる。バーナビーは虎徹に当たるようにして声を荒げた。

「貴方には関係ない事でしょう? そういうのがお節介だっていうんですよ! とにかく、あなたが善かれと思ってやってる事でも、周りに迷惑かけてるってことを分かって下さい!」
「う、うーん」

 納得がいかないという顔をして虎徹は唸った。
「バーナビーさん!!」後ろから、赤ちゃんを抱いた女性が駆け寄ってきた。女性は虎徹には目もくれず、邪魔だと言わんばかりに押しやってバーナビーの前に立った。

「サイン、お願いできますか? この子が大ファンで……!」
「この子が?」

 女性の腕の中を見ると、まだ一人で立つ事もままならない程に幼い赤ちゃんがすやすやと眠っていた。子供がファンだと言うことにしてサインをもらおうとしている魂胆だろうとバーナビーは思って一度断ろうと思ったが、悪い印象を与えてはいけないと、すぐに愛想良くそれを承諾した。
 女性がペンをバーナビーに渡してサインをする場所を指差した。バーナビーは子供の服に自分の名前を書いていく。蚊帳の外となった虎徹は暇そうにその姿を覗いていた。

「そうだ、おめでとうございます!」
「え?」
「明日、お誕生日ですよね」

 見ず知らずの女性から相棒の誕生日が明日だということを聞いて、虎徹は目を丸くした。

「バーナビーさんくらいのお方だと、さぞゴージャスでエクセレントなお誕生日を過ごされるんでしょうね」
「いや、特になにも」

 曖昧な返事をして笑うバーナビーの寂しげな笑顔を、虎徹は見逃さなかった。

「わあ! ありがとうございます!! 一生の宝物です!」

 サインを終えたバーナビーが女性にペンを手渡した。しかし子供を抱いたいたせいか女性がペンを落としてしまった。あわててそれを拾おうと中腰になる女性を制止して、虎徹が間に入る。

「いいです、いいです!お子さん抱えて大変でしょう!!」

 良いところを見せようとした虎徹が愛想よく笑いながら落ちたペンを拾おうと一歩前に踏み出した。しかし、落ちていたペンが靴の先にコツンと当たる。そのまま、ペンは車道に転がっていくと運悪くそこに車が通った。そして三人の目の前で、無残にもペンは車に踏み潰され、粉々に砕けてしまった。

「あ、ああ!!」
「あ、あのう……」

 女性のもの言いたげな視線に気付かず、虎徹は車道に出てペンを踏み潰していった車に怒鳴る。

「空気読め、クソ車!」

 言っていた傍から虎徹のお節介が招いた結果に、バーナビーは深い溜め息をついて頭を抱えるしかなかった。




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