一方そのころ、パワードスーツを破壊する為にファイヤーエンブレム、ブルーローズ、ドラゴンキッドはそれぞれ指定された場所に向かっていた。
 ネイサンはPDAから二人に激を飛ばす。

「女子の底力、見せてやりましょ!」

 その言葉があまりにも不自然で、ブルーローズは思わず眉根を寄せた。

「女子? 若干違う方がいる気が。」

 ネイサンの性別は曲がりなりにも男である。それを指摘したのだが、なぜか別の場所から落ち込んだ声が聞こえた。

「ごめん、僕がボーイッシュだから……」

 ドラゴンキッドは自分が指摘されたと思ったらしい。とんだ勘違いにブルーローズはさらに眉間にしわを寄せた。

「いや、じゃなくて、」
「何!? アタシが女子じゃないって事!?」
「……もう、めんどくさいこの二人!」

 天然なのかわざとなのか。二人はそれぞれおかしな反応を見せる。ブルーローズはたまらず愚痴をこぼした。
 そうこうしているうちに、パワードスーツが配置されている場所に三人は到着した。


「着いたよアニエスさん!」
『ジャミングシステムを起動させるわね』

 起動のカウントダウンが始まる。五秒後、ジャミングシステムは問題なく作動したと報告があった。
 これでパワードスーツを止めることができるようになった。三人はそれぞれの場所でパワードスーツに近づいていく。

「は〜いマッド・ベアーちゃ〜ん、脱ぎ脱ぎちまちょうね〜」

 そんなファイヤーエンブレムの声がPDAから聞こえてきたが、もはやに言及する者はいなかった。
 静止したまま微動だにしないパワードスーツにファイヤーエンブレムがパワードスーツに触れた。その時だった。

「なんか光ってるよ!」

 パワードスーツのモノアイが光り出したかと思うと〈自己防衛プログラムが作動します〉という機械音声と警告音が流れ出し、パワードスーツが一斉に動き出した。

「嘘――」
「ちょっ、タンマタンマ!」

 慌てる三人に、大量に配置されたパワードスーツはマシンガンを撃ち込んだ。


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「ああーっと、復讐君記念すべき三十回目のダウーン!」

 地面に体が打ち付ける間際、ジェイク贔屓の実況が聞こえた。
 ジェイクはバーナビーにゆっくりと近付くとしゃがみこんで顔を覗く。

「さっさと能力発動しろよ。早くしねえと死んじまうぞ」

 言われなくとも自分の体の事は自分がよくわかっているとバーナビーは内心悪態を吐いた。だが、能力を発動しなければジェイクに勝つことは不可能だろう。今はその勝機はどこにもない。それが見つかるまでは能力を温存しておこうという作戦だったが、次のジェイクの一言で冷静な判断は吹き飛んだ。

「あ、そっか。パパとママに会いたいのかあ。じゃあ親子揃って殺してやるよ。心配すんなって。あの女もすぐ後に送ってやっから」

 バーナビーの抑えつけていた怒りが一瞬に頂点に達した。無意識のうちに能力を発動させてジェイクに突っ込んでいく。

「あーきたきた」

 簡単に挑発に乗ったバーナビーをニタニタと笑いながらジェイクは応戦する。
 感情を剥き出しにしたまま戦うバーナビーに勝算の色が見えるはずもない。ジェイクはバーナビーの心のうちを全て見透かしているのだから、何度攻撃をしても避けられるか反撃されるかのどちらかしかなかった。
 能力をもってしても力の差は歴然だった。茶化すようにバーナビーを攻撃し続けるジェイクを見て、モニタールームで見守っていたアニエスの口から嘆声が漏れた。

「この作戦、失敗なの……」

 モニターにはバーナビーの戦闘の他に、パワードスーツを破壊しにいったヒーロー三人の姿が映し出されていた。三人の戦況もまた芳しくはなかった。防御プログラムによって動き出した何十体ものパワードスーツに苦戦を強いられていた。

「もうバーナビーも限界です。能力を発動してもやられっぱなしで……」
「このまま負けたら街が半分――」

 アニエスたちの背後でバーナビーの様子をじっと見つめていたマーベリックが顔をしかめた。

「半分ではすまんだろうな。戦いが終われば、我々がパワードスーツに反撃した事に気付くはず。怒りに任せて柱を全て爆破させるかもしれん」
「そんな……っ!」
「もはやバーナビーに託すしかない」

 今や、この街の全てはバーナビーにかかっていた。勝機はほとんど見えないが、ヒーローTVの一員として、皆バーナビーを信じていた。
 固唾を飲んでモニターを見つめる中、電波の乱れる音が聞こえた。

『パワードスーツは、まだ倒せていないようですね』
「誰!?」
『――変声器が破損したようですね』

 変声器という単語で割り込んできた人物の正体がすぐに浮かび上がった。

「貴女、ウィステリアミストね!?」
「もしかして君がアニエス君の言っていた」
『詳しい話は後程。パワードスーツの始末をしているお三方にお繋ぎくださいまし』

 突然きこえた声にマーベリックは驚いて硬直している。アニエスはすぐに目配せをすると、ケインは大きく頷いてボタンを押した。

『くそっ、拉致があかねぇ』
『こいつら結構強いよ!』
『こんなにいっぱい、一人じゃ無理よ!』

 マイクを繋いだ途端聞こえてきたのはヒーローたちの悪戦苦闘する声。
 このままではバーナビーが倒され、パワードスーツに街を破壊されてしまうのも時間の問題のようにも見えた。

『皆様聞こえますでしょうか?』
『え、シシー!?』
『なんでシシーの声がPDAから聞こえるの!』
『お話は後でございます。パワードスーツは中に入っているぬいぐるみが操作しております。そのぬいぐるみを動けなくさせれば、パワードスーツも止まるでしょう』
『ちょ、ちょっと待ってよ! なんであんたがそんな事、』
『シシーがいつも助けてくれた機械の声だって事だよ!』

 完全に素に戻っているファイヤーエンブレムが怒鳴るように言った。それを聞いたドラゴンキッドとブルーローズも納得したようだった。

『そのことについては後程お話致します。今はパワードスーツを倒す方が先決。カリーナ様』
『何!?』
『むやみに凍らせても意味がありません。ハッチの隙間から冷気を流し込んでぬいぐるみだけを凍らせてください』
『――了解!』
『パオリン様はパワードスーツの膝の後ろにある回線を電流を流して焼き切って下さいまし。そうすれば足が動けなくなります』
『オッケー!』
『シシー! こっちはどうすりゃ良いんだよ!?』
『ネイサン様は……とにかくパワードスーツを焼いて下さいまし』

 二人と違って大雑把すぎる作戦にファイヤーエンブレムは思わず転びそうになった。だがシシーは作戦が思いつかなかったからそんなことを言ったのではない。

『金属は急激な温度変化によって形が変形します。熱するだけ熱した後、急激に冷やせば機械にも損傷が出るはずです』
『そんな簡単に言うけどよ、冷やすものなんてそうそう――』

 言いかけて、ファイヤーエンブレムは目の端に映った物を見てはっとする。ファイヤーエンブレムのいる場所は埠頭で、すぐ傍には冬の冷たい海水が凪いでいた。勝機を見出したのかふふふ、と不敵に笑うファイヤーエンブレムにシシーが気付く。

『おわかりいただけたようですね』
『そうだったらそうと早く言ってよねシシー! 行くぜオラァ!!』

 すぐにファイヤーエンブレムの業火の音がマイクに入った。

『後はお三方の経験次第でどうとでもなるでしょう。では私にはまだやることがありますので失礼致します』
「まちなさ、」

 アニエスの制止を聞くことなく、入っていたノイズが消えた。

「彼女は――」
「わかりません。でも、逆探知には成功しました」
「アニエスさんそんなことしてたんですか!?」
「当たり前でしょよ、こんなチャンスみすみす逃すヘマはしないわよ!」

 いつからかもっていた逆探知器を見せびらかしてモニターに情報を転送した。地図の中心に赤色の点が点滅していた。

「ここに隠れてるのね」
「え、いや、でもここって……」
「ここって、アリーナじゃないの!?」

 印は、バーナビーとジェイクが闘っている場所で点滅していたのだった。

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