苛々したとき甘いものが無性に食べたくなるときがある。それは私だけかもしれないけれど、1度食べたいと思うと甘いものを食べるまで苛々が続くのだ。部活をやめて、受験に本格的に力を入れて、解けない問題や長時間勉強することで苛々してしまう。そういうときは近くのコンビニに行って、甘いものを買うついでに気分転換をするのだ。しかし、それには問題点があって気分は変えられるし苛々も落ち着くのだけれど、金銭面と私の体重には全然優しくないのだ。そんなことを考えて溜息をつきながらコンビニに入ると、それと同時にお店から出ていく人がいた。それは私の知っている人で、でもあまり深くは知らない人。確かサッカー部の南沢って人じゃなかったかなぁ、とまぁでもどうでもいいやと思い早く甘いものを買おうとお菓子の置いてある商品棚へと向かう。
商品棚へ着くと期間限定とか、売れ筋ナンバーワンとかそういうフレーズをたくさん目にしてどれにしようかと迷い始める。そういう言葉に弱いのだ。うーんと唸りながら商品を手にとっては置いてとっては置いてをくり返して、何十分も考えてから買う。誰かと一緒にいるときにこれをすると、大体は相手を怒らせてしまうのだ。だけど今日は誰とも一緒に来てないからのんびりと選ぶことができた。袋に入ったチョコレートのお菓子を眺めながらお店を出ると、おい、と声をかけられた。お菓子から目を放してその呼んだ人を見ると、さきほどすれ違って店を出ていった人だった。

「お前、それ買うだけであんなに時間かかってたのかよ?」

ぽかん、と口を開けてしまった。私はこの人と話したことがない。というか見かけたことしかない。とりあえず人違いじゃないか確認するとどうも私の名前は知ってるみたいで、1度話してみたかったとのこと。まぁ、受験生だしどんな対策してるのか私も知りたかったからいいかな、と思い帰り道を歩きながら話すことにした。

「それ、美味しいのかよ」

ビニール袋に包まれたそれを指差して、眉間に皺を寄せて彼は唐突に聞いてきた。

「…食べる?」

美味しいかと聞かれて答えられるはずがない。だって、今日初めて買ったんだから。銀色の袋を破いて1つ手に取り、南沢くんに差し出すと私の腕を掴んで自分の口にお菓子を入れた。

「自分で取ればいいのに」
「手汚したくないんだよ。つか、甘すぎんだろ、これ」
「ああ、だよね。これは、私も甘すぎると思う」

違うのにすれば良かったかな、と呟けば「はあ?」と言われ怪訝な顔をされた。初めて買ったことを伝えれば、また怪訝な顔をされる。

「買うんだったら美味しい保証があるものを買うだろ」
「うーん。何事も挑戦!みたいな感じなんだよ」
「わかんねぇわ」
「わかんなくていいわ」

ふっ、と笑った南沢くんにつられて私も思わず笑ってしまった。この人、ちょっと面白いなあなんて思った。そんな人と3年間話をしなかったなんて、何か損した気分だ。ああ、もうすぐ、私の家に着いてしまう。南沢くんは噂によると頭良いみたいだし、高校違うだろうしもう会うことはないよなあと少し寂しい気持ちになった。
そんなことを考えているうちにあっという間に家に着いた。あともう少し家までの道のりが長くても良かったかも。なんて、いつもなら絶対に思わないようなことを考えてみる。

「…南沢くん、それじゃあね」

ひらひらと掌を振れば、南沢くんは私にいきなり紙切れみたいなのを握らせた。拳を開ければ、先程のコンビニのレシートで買ったもののお茶とガムの値段が当たり前ねように記されている。でも、裏を反してみると携帯の電話番号が書かれていた。彼を見ると、照れ隠しなのか違う方を向いていた。でも、なんでレシート?そう聞けば、携帯は家でそれしかなかったんだよ、とのこと。
南沢くんって、噂と違ってかっこわるいけど、私嫌いじゃないな。


あしたも、そうだなあさっても


もっと君のことが知りたくなったよ



企画: 食べて仕舞おう 様に提出

/20120529

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