部活動のない休日。申し訳程度にかけたクラッシックをBGMに読書に励むには最適なこの時間は、ドタドタと慌ただしく階段を駆け上がる音の主によって、突然の終止符が打たれた。 「しんたろー!」 「…部屋に入るときはノックをしろと言ってるのだよ」 「コンコン、しんたろー」 「もういい。一体何のようだ」 向かいの家に住む彼女、ななしは所謂幼馴染というやつだ。それこそオムツをしていた頃から互いのことを知っている、正真正銘の旧知の仲だ。そんな彼女が目を爛爛と輝かせ、こちらにしっぽを振っている。これは困った。嫌な展開しか思い浮かばない。手に取っていた本に栞を挟み込み、デスクの上に置く。これから起こりうることに備え、軽く、溜息。 「あのね、あのね、しんたろーさ、カガミくん…って知ってる?」 「は?」 実はね、彼、うちのマジバのアイドルなの〜!頬を染めながら報告する彼女を目の前にして、頭に飛び交うクエスチョンマーク達。ななしが駅前のマジバーガーでバイトしているのは知っていた。では何故、火神のことを知っていた?何故、己が知っているかもしれないとわかった?前半の疑問は彼女の言った『マジバのアイドル』とやらで、それとなく解決する。問題は後半だ。彼女自身はバスケに本格的に携わった事がないため、パッと見でわかるはずがないのだが。悶々と深慮していると、その顔はわかってる顔だとかなんとかと騒ぎ出すななしの額を軽く叩いて黙らせる。 「いたい」 「…知らない訳じゃ、ない」 「シカトか!まあ、いいけど。よし、話は早いね」 「何がだ」 「私ね、火神くんに一目惚れしちゃったのー!」 きゃいきゃいとはしゃぐ彼女を見つめる目は思い切り開かれているだろう。誰が誰を好きだって?火神を?ななしが?冗談きついとはこの事なんだろうか。彼女の肩をがっしりと掴み、心根に訴えかけるように話す。総合的には火神なんてバカはやめておけと。後日、緑間は激しく落胆することになる。心底不満そうな顔をする彼女の性格をうっかり見誤っていたと。あえて毎日のように連絡を取り、火神との接触を避けさせるようにすることで、彼女の中の闘争心に火がついたと。にっこりと笑いながら「火神くんとお付き合いすることになった」と言ったななしの笑顔により、緑間が膝を崩す日まで残りは…。 「よう、緑間」 「火神…俺はお前のことを決して許さないのだよ」 「なんでだよ!」 「自身の胸に手を当てて考えろ。そして、俺に謝るのだよ」 実にくだらない 120801/春様リクエスト |