大好きな人がいた。
人気モデルだったななしさんは自由な人で、よく周りを困らせては楽しみ、そのとき自分が思うまま、自分を、周りを動かす人だった。周りはそんな彼女に尊敬、憧れの念を抱いていた。それは俺も例外ではなく、彼女を憧れていた。いや、憧れを通り越して陶酔していた。彼女の見ている世界を見たいと思った。そう、自分は彼女に恋をしていた。

「あれ、黄瀬くん、ピアスつけたんだ」

いつの日か、そう彼女は言った。そういう彼女にも女物のような男物のような、シンプルでかっこいいピアスがつけられていた。

「ななしさんに近づきたくて」

笑って言った。軽く流されたけれど、あながち嘘ではなかった。それだけの理由でピアスをつけた訳ではないけれど、少しくらいのってくれてもいいのに。

「黄瀬くんはピアスつけなくてもよかったのに」
「なんでっスか?」

そんなに否定しなくてもいいのに、と心の中で思う。ファンの子たちも褒めてくれたから、そこまで悪い訳じゃないと思うんだけれど。

「私がそっちのほうが好きだから」

にこ、と笑って言ったななしさん。でも笑った顔が、なんか、いつもと少しだけ違って、寂しそうに見えて、なんでだろう、と思った。思っただけだった。そのとき問いただせていれば、今と何か変わっていたのかも知れないけれど。

そして2ヶ月後、ななしさんはパリに行った。在学中だった大学を辞め、パリでモデル業に専念する、と言っていた。
それを機に俺はななしさんに告白した。でも断られた。忘れられない人がいると。もうとっくにこの世界にはいないけど、自分に纏わりついて消えない男がいると。俺は直感した。ななしさんがつけているあのピアスは、その男と何か関係があるのだろうと。黄瀬くんのことは嫌いじゃないし好きだけど、こんな自分のまま黄瀬くんに甘えたくない、と泣きながら言っていたのを俺は鮮明に覚えている。あの何にもとらわれないななしさんが、泣いている。消えないと、離れてくれないと。
これ以上ななしさんを見ていられなくて走り出した。それからはななしから逃げて、ついにななしさんは1カ月前パリに行ってしまった。

俺が今持っているのはななしさんからの手紙だ。このメール社会の中で手紙なんて、ななしさんらしい。手紙には謝罪の言葉と、感謝の言葉と、一枚の写真が入っていた。
それはななしさんがパリで撮ったらしい写真。景色の良い公園でななしさんが笑っていて、元気そうでよかった、と安堵する。ただ違和感はななしさんの耳にあのピアスがないこと。驚いて急いで携帯を取り出し、消そうか迷っていたななしさんのアドレスを出す。少しの期待と怖さを胸に秘めながら、発信ボタンを押した。
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