「涼太くんのピアスって、いつからあいてるの?」にこにこと笑ったななしが左耳朶にそっと手を伸ばし問いかける。「中学からっスよ」くすぐったいような感覚に身を捩りながら彼女の手を制して、あの頃に思いを馳せる。そうだ、あれは全中あとのことだ。 。oO○ 全中三連覇の後に黒子っちが姿をくらませた。といっても部活に顔を出さなくなったと言ったほうがいいのだろう。学校には来ているし、顔を合わせないわけではないし。部活に来なくなったといえば、青峰っちもだった。彼のバスケが本当の意味で『孤高』のものになった瞬間から帝光バスケ部には亀裂が入りだしたのかもしれない。どんどん崩れていく関係が辛くて他の部員に相談しても、苦い顔をされるだけだった。左耳のピアスには【勇気と誇り・守る人】という意味があるらしい。モデルの仕事中にその事を耳にして、思わずピアッサーを買って帰った。『いつか彼らと対峙してしまった時に戦う勇気』『彼らをまた繋げる架け橋になる勇気』『キセキの世代としての誇り』『その誇りを守る』そんな意味も込めて、左耳に当てたピアッサーを思い切り握りこむ。ガチャンと無機質な音が鼓膜に大きく響いた。じんじんとした痛みと耳朶に感じる違和感を気にしない振りして、ふうっと溜息を吐く。このピアスが誓いの証。そう遠くない未来に、この勇気と誇りが試される時が来るのだろう。 ○Oo。 「涼太くん?」「へ?」「ボーッとしてたけど…」「あー、いや、ちょっと思い出しただけっスよ、昔を」「ふーん」自分から聞いてきたくせにさも興味無さ気な顔をするななし。そういえばこの子とは結構な付き合いになるのだなと思いつつ、今は何も刺さっていない空洞を左手で弄る。ちらり、様子を伺うような視線を感じた。「なんか…やだなあ」「…なにが?」「その穴が」「は?」不意を突かれた体はあっという間に後ろに倒れる。視界には天井を背景にした愛しい彼女。逆光で薄暗くなった顔から上手く感情は読み取れない。「何してん、スか」「嫌い」「は?何が?」「涼太くんを縛り付けてる、その穴が嫌い」彼女が上体を倒したことで息がかかる程に近くなった互いの顔。鼻先をくっつけた後、彼女の顔は視界から消え去る。次に感じたのはねっとりとピアスホールをなめられるような感覚だ。「ちょ、ななし、なにし…んっ」「もうやめちゃいなよ」「汚ぇだろ、そこは…っ!」「私が、全部飲み込んであげるよ」涼太くんが必死に守ろうとしてるもの、涼太くんを縛ってるもの。そう言って彼女は何度も何度も小さな穴が空いた場所を口に含む。決して放たれることのない呪縛から救い出そうとする行為に胸が締め付けられる。視線を傾ければ泣きそうな表情で愛撫する瞳と目が合った。彼女にも己を締め付けた意味が伝わってしまったのだろうか。そっと頭を撫ぜれば彼女がそこから唇を離す。「ごめん」そんな謝罪に彼女が救われない。わかっているけど、これ以外にいい言葉が思い付かないんだ。ぽたぽたと降ってくる温かい雫を止める術を知ってるはずなのに、この心地より温もりをもう少しだけ浴びていたいんだ。
ピアスの穴は塞がった?

(120830)
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