一緒に帰ろうと送ったばかりの征ちゃんへ「色々あってやっぱり帰れません」とメールする。私の人生初彼氏さん(仮)は他の彼女であろう子に『もうひとり彼女できた〜』なんて報告しているようだ。ってなんだそりゃ。ジェネレーションギャップというか、もうなんなのこれ状態で黄瀬くんの出方を待っていると、じっと見つめていた事に気づいたのか、にっこり笑って「じゃあ、俺ブカツ行ってくるっス」と。

「放課後、迎えに来るから…ここにいてね」
「えっ、あ、はい…」

それじゃあ〜、と手をひらひら振る黄瀬くんに倣い、同じようにして返す。やがて彼の姿が見えなくなってから、またそそくさと携帯を取り出した。急いでメール画面を開き、電話帳のマ行から二人の名前を呼び出し、新規メール作成っと。

To .さっちゃん、友達ちゃん
Sub.無題
―――――――――――――
なんかよくわからないけど
付き合うことになった(ハート)
どうしよう、これ^^;

送信ボタンを躊躇なくプッシュし、ひとり回想する。振られると思っていたのに、付き合えることになった。この文章だけだと、大変喜ばしいことだ。人生初の彼氏が超イケメンだなんて…誰が予想していただろう。まあ、そんなに甘い人生ではないのだけど。そんな彼氏さんには他に2人の彼女がいて、その彼女たちも複数人と付き合う彼氏を快諾していて。もうこの時点で色々おかしい。複数人と付き合うって、何股もやっちゃってる男の所業を快諾って。いや、まあ、私もしちゃったけど!悶々、もんもん。考えても最善の答えなんて出てくるはずもなく。


うっかり寝てしまっていたらしい。時刻は黄瀬くんが出ていってからだいぶ経っていた。夕焼けが眩しかった空が、今となっては月が輝きだしている。うーんっと伸びをすると「おはよ」と誰かの声がした。

「よく寝てたっスよ」
「………黄瀬、くん」
「はい、黄瀬くんです」

声がする方向へ勢い良く体を向けると、私が告白してしまった時より髪の毛をしんなりとさせた黄瀬くんがいた。月明かりに照らされる黄瀬くんは相変わらずのイケメンだ。そんな事を考えていると、はーっと長めの溜息をする音が聞こえた。

「ったく、青峰っちとワン・オン・ワンやってる時間まで待ってるオンナのコなんて、名前ちゃんが初めてっスよ」
「えっと…褒められてる?」
「貶してるんス。つーか、健気に待ってたんじゃなくて寝てるし」

そこ、よだれのあとあるっスよ。そう言い、口の端を人差し指で指すようなジェスチャーを見せる黄瀬くん。慌てて口元をゴシゴシと撫ぜると、嘘っスなんて言いやがった。何股もやっちゃうあたりから思ってはいたが、本当いい性格してるしてるなぁ、彼。

「さーってと、帰ろっか」
「あ、うん…っと、カバンかばん…」
「ここにあるっスよ」
「ありがとう…」
「いーっスよ。ほい、お手て」

黄瀬くんが持っていてくれたらしいカバンを受け取ると、逆の手を差し出される。これは、いわゆる、手をつないで帰ろう的な…そんな…!一人わなわなと震えていると「めんどくせー」なんてボソっと呟いて、私の手をとる。ずんずん引っ張られていく体は抵抗することを許されないような、そんな気が、しなくもない。

「名前ちゃん、家はどっち方面なんスか?」
「えっと…あっち」
「ほー、ふーん…赤司っちと同じなんスね。さすが幼馴染」
「というか、今は、せい…赤司くん家に居候してるから」
「あー…、だから赤司っちの監視の目が緩いんスね」
「へ?」
「いや、こっちの話」

他愛もない話をしながら帰路につく。帝光初日な私のためなのか、学校に関係する話をしてくれる黄瀬くんに終始キュンキュンしていたのは心の奥底にそっと閉まっておくことにしよう。なんて言ってると、あっという間に赤司家に到着してしまう。ほんと、なんでこんなに近いの、征ちゃんのお家!我が家は隣だけど!

「ここが赤司っちの家っスか」
「うん。ちなみに隣は我が家です」
「隣なのに、居候してるんスか」
「あー、今わたしだけなんだよね。両親、海外行っちゃってて」

そういえば事情を話してなかったけ。思い出したように帝光へいく事になったきっかけを話す。家に一人という単語を出した途端に黄瀬くんの目が輝いた気がした。ような、そんな。

「ふーん、名前ちゃんだけなんだ」
「とはいっても、今は征ちゃ…赤司くんの家に住んでるようなものかな」
「…まあ、ソウイウコトは追々ってことで。今日のご褒美、もらってもいいっスか」
「ご褒美?飴とか?」
「そーゆーのは紫っちのご褒美で、俺のご褒美は、こっちっス」

くいっと顎を竦め取られると、本日二度目の接吻。ファースト・キスもセカンド・キスも黄瀬くんに奪われちゃったなーなんて考えていると、やたら口をつけている時間が長いことに気がつく。あまりの苦しさに黄瀬くんの胸元を叩いてみるも、びくともしない。どう息をしたらいいのか分からず、少しだけ口を開けてみると、そこからぬるりと生暖かいモノが侵入してくる。びっくりして、思わず入ってきたソレを咬んでしまうと「いでっ」という黄瀬くんの声。

「ったく…、ここは大人しくされるがままになっとくとこっスよ」
「ししししししし、した…!」
「ベロチューぐらい、カレカノだったら毎日やる事なんスから」
「いやいやいやいや…」

いてーいてーと嘆く黄瀬くんを前に、驚きと羞恥が襲ってきて顔を必死に仰ぎ隠す私。「今度するときは、もう咬まないでくださいっス」と私の頭をぽんっと撫でたかと思うと「また明日」と。そのまま踵を返し、黄瀬くんは暗闇に溶けていってしまった。残されたのは彼の香りと、生暖かい感触と、ぼーっとする頭と。

(120708)
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