しとしと、うっとおしいほどの雨が続くこの時期に転校する事になったのは何故か、に思いを馳せる。

父がトンデモ大出世を果たしたのが数週間前。海外への転勤が決まり、両親はパリへと栄転する事となった。その際、わたしは残ると言ったのだが、娘ひとりは危険だの世間体がどうのこうのとなかなか許してくれず。妥協策というのが、この帝光学園高等部への編入だった。せっかく寮のある高校への編入だというのに、もちろん許してもらえず、お隣の赤司家にお世話になる事となった。

のが、一週間前までのお話。本日は赤司家にお邪魔する一日目。そして、明日には帝高編入のイベントが待っている。赤司家と言えば、同い年の幼馴染 征十郎、通称 征ちゃんがいるのだが…これが少しばかり気まずい。私は進むべくして公立中学校へ進んだのだが、征ちゃんはバスケのセンスを買われ、帝光の中等部へ。小学校の頃から向こうはバスケ、こっちは…まぁ年相応に遊び呆けていたので話す機会も減っていて、からの、別の中学だ。彼是三年以上まともに会話らしい会話をしていない。しかも全中三連覇したキャプテンということで、周りからの評判も高い。もっと言うなら、私も征ちゃんもオトシゴロなのだ。そんな2人を一緒に住まわそうとする両親の征ちゃんへの謎の信頼感。もっと娘も信用してほしいものだ。そんな、なんとも言えない気分のまま、赤司家のインターフォンを押す事になる。

― ぴんぽーん

はーい、という叔母さんの可愛らしい声にドキドキと胸は高鳴る。この時間だ、さすがに征ちゃんも部活に出向いているはずだ。そう高を括っていたのもつかの間、開いたドアの向こうには見覚えのある赤い頭とオッドアイ。違うのは…そうだな、目線の高さだろうか。

「あ、えっと…お久しぶりです」
「あぁ、久しぶりだな」
「本日から、その、お世話になります」

ふっと笑う所は相変わらず、年に似合わず大人びている。私服…というにはラフな格好だが、ハーフパンツから覗く筋肉は如何にもスポーツマンである。たかが数年、されど数年。お互いにこんなにも変わるものだろうか。

叔母さんにも挨拶を済ませ、部屋に案内してもらう。どうやら半年前に結婚して家を出たお姉さんの部屋を家具ごと貸していただけるらしい。これは両親に持たせてもらったお礼では足りなさすぎるんじゃなかろうか、と思案していると後ろから声をかけられる。

「明日から帝光なのだろう」
「う、うん。すっごく中途半端な時期だけど」
「そんな心配そうな顔をするな。俺もいるし、そうだな…名前の大好きだった桃井もいる」
「え!さっちゃんも帝光なの?」
「ああ。大輝も一緒だ」
「そうなんだ…2人とも全然会ってないから、変わってるだろうな…征ちゃんも暫く見ないうちに大きくなったし」
「俺は人並みに成長しただけだ。…それより、名前。その呼び方は何とかできないのか」
「え、征ちゃん…は不味い?」
「お互いに成長したんだ…っと、名前はさほど変わってないか」
「ちょっと、どういう意味」
「まぁそう気をたたせるな。うちではいいんだが、もうガキではないからな。それなりの呼び方に変えてもらえると助かる」
「うん、わかった」
「ああ、頼んだぞ」

また夕飯の時間になったら声をかける。そう言い残して征ちゃんは部屋を出て行った。ドアが閉まったのを確認して、ゆっくりと息を吐く。征ちゃんともまともに話せた。学校にはさっちゃんと大輝くんもいる。憂鬱だった新しい学校生活に一筋の光が射したように感じた。

とりあえず今日は、さほど多くはない荷物を片付ける事にしよう。

(1210701)
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