バスケ部には来ないでほしい発言から、早3日。さっちゃんや友達ちゃんから見学に誘われる度に架空の口実を作り逃げ、帰宅後に前の学校の友人へ電話するのが日課になりかけていた。彼氏(仮)からの連絡はメール程度で、あの日のキス以来、カレカノらしいことは何一つない。そのことが私が「3番目の女」であることをひしひしと感じさせた。

そんな日曜日の午前10時。

朝起きてすぐに洋服を取りに我が家へと向かった。約一週間ぶりの自室は少しだけ生ぬるい空気が漂って、思わず換気。窓から見える赤司家は、我が家より…でかい。夏服を数着手に戻り、その後は特に予定もなくリビングでだらけていた。そんな空間に響いた「あら」というおばさんの声。

「やだ、征十郎ったらお弁当忘れていっちゃてる…」
「征ちゃんが?めずらしい」
「そうなのよ…あ、よかったら名前ちゃん届けてもらってもいい?」
「いいで…、あ」

『申し訳ないけど、バスケ部には遊びに来てほしくないんスよ』
二つ返事で了承しようとした時に、困ったような顔をした彼の言葉が脳内でリフレイン。休日の征ちゃんにお弁当を届けること、すなわちそれはバスケ部がいる体育館に届けることとなる。悩ましいところではあるが、目の前のおばさんにはそんなこと関係ないのだ。言葉に詰まった私を不思議そうに見つめる彼女に「持っていきます」と了承の言葉を告げるほか、この場が丸く収まることはないのだった。

* * *

休日の帝光学園も活気に満ち溢れている。どちらかといえば、灰色に近い高校生活を送ろうとしている私にとって目に痛い眩しさだ。一際歓声の多い建物へと歩を進めれば、ちらちらと見えてくるメッシュビブスを来た生徒たち。たぶんバスケ部員なんだろうけど、声をかけれるような雰囲気を誰一人としてしていない。その辺にいる部員に声をかけて渡してもらえばいいや、なんて楽観していた30分前の自分をタコ殴りにしたいと心の底から思った。

体育館の入口から顔を覗かせると、色とりどりのビブスがドリブル音やスキール音たちの交響曲で舞っている。思わず息を呑むと、肩をポンポンと叩かれる感覚に声にならない悲鳴を上げてしまった。

「だっだだっだっだあっだ、誰!」
「あれ、赤ちんのお弁当箱もってるから、君が噂の名前ちんだと思ったんだけどー、違う?」
「違わないけど、違わないけども!私の質問にも答えてよ!」
「えー…、なんかお菓子くれるならいいよー」

へらり笑う大きな、大きな彼は右手をすっと差し出す。見上げすぎて首が痛くなるほどの長身とお菓子という単語で彼がキセキの世代の紫原くんであると予想はできたのだが…、ここは餌付けしないと、どうにも太刀打ち出来ないと思う。お弁当と携帯と財布以外、思い浮かぶ手荷物はないのだが、そっとカバンに手を突っ込めばこの前街で配っていたチュッパチャップス。その存在すらも忘れていたそれを彼の手に落とした。

「おおー、メロンソーダ味じゃん。名前ちんやる〜」
「あ、ありがとう?とりあえず、あなたは紫原くんでいいのかな」
「敦でいいよ〜。俺、名前ちんって呼んでるし」
「や、紫原くんのほうが」
「呼んでくれねーの?」
「呼びます、呼びますとも」

再三言うようだが、私、名字名前。齢は今年で17歳。イケメンには滅法弱い、花も恥らう乙女である。手渡したチュッパチャップスを頬張りながら、ニコニコと笑う彼は同年代なのにどこか可愛らしい。この高身長とこういうところのギャップがいいんだろうか…。いかん、このまま絆されそうだ。

「敦くん」
「なにー?」
「よかったらさ、これ征ち…じゃなかった、赤司くんに渡してくれないかな?」
「えー、ここまで来たんなら自分で渡したがよくねー?それに、ほら」
「ん?」

大きな彼の大きな手がそっと指差す其処には、笑顔でこちらに手を振る征ちゃんとさっちゃん、そして友達ちゃん。ありゃま、見つかっちゃった。そう思いつつ、空いてる方の手を振り返そうとしたのだが、その手は大きく空を切っただけに留まる。そっと視線をずらした先には形容しがたい形相で此方を見つめる黄瀬くんがいたのだ。

(120724)
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -