彼女と桃井さんが帰っているところに、偶然を見せかけて声をかける。笑顔を見せて了承してくれた桃井さんの視線は黄瀬くんに釘付けである。コイスルオトメとはこんなにもわかりやすいものなのだろうか。


「あーんってし合いっこしよう」

にっこりと笑う彼女に心を持っていかれるかと思った。否、持っていかれていたんだった。他人に向けられる笑顔だけでこんなにも幸せな気持ちになるというのに、これが自分に向けられたら。あゝ、独り占めしてしまいたい。

桃井さんが彼女の分のドリンクを取りに行くという。ぐるぐると思考を巡らせ、ある一つの答えにたどり着く。桃井さんを倣って、黄瀬くんの分までドリンクを取りに向かう。そこには○さんの分のアイスティーを注ごうとしている桃井さんがいた。

「桃井さん」
「あ、テツくんもドリンク?」
「はい。あ、それ持ちましょうか?」

ありがとう、と笑顔を浮かべる桃井さんはどこからどう見ても美少女だ。こんな美少女に好かれているというのに、ちらりとも気づいた様子を見せない黄瀬くんは鈍感なんだろうか。まあ、今はそんなことどうでもいい。本題は別のことだ。

「テツくん」
「はい、なんでしょう」
「○のこと…すき?」
「…そうですね、ラブかライクかと問われればラブです」
「そっか。私もね、きーちゃんのことが好きなの」
「知ってましたよ」
「やっぱり」
「…提案なんですけど、協力し合いませんか」

まさか彼女の方からそんな事を問われるとは思わなかった。自分から切り出すことなく本題へ持っていけたのはありがたい話だが。互いの幸せのため、協力の提案をすると、桃井さんはにっこりと笑顔を浮かべる。

「…なんで?」
「正直に言いますけど、桃井さん。貴女が心底邪魔なんですよ」
「ふふっ、私も。テツくんときーちゃん、いっつも一緒だからチョー邪魔」
「邪魔に思ってる同士、協力したほうが丸く納まると思いませんか」
「すっごく腹立たしいけど、その話、乗るしかない状況ね」

諦めたような笑みを浮かべ「アイスティーちょーだい」と手を伸ばした桃井さん。その手に求められたものは渡さず、自分の空いている手を差し出す。

「握手なんて求めてないんだけど」
「これからよろしくって意味ですよ」


 side:K

(120708)
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