誰もが恋する王子様に恋をしてしまったら、誰よりも彼と接しなければ彼の印象には残らない。なーんて、これは我が母の受け売りである。しかし、今まさにその状態だ。王子様はどこまで行っても皆の王子様のまま、そんなのは我慢ならない。


「でね、きーちゃんってばタオル忘れちゃって」
「えー、でもさつきが黄瀬くんに代わりのタオル渡したんでしょ?」

まったりとした昼下がり、○といつものようにおしゃべりをしながらお菓子をつまむ。私の他愛もないきーちゃん談義にも文句ひとつ言わず付き合ってくれる○は、内面外面そろって天使のようだ。ポッキーをつまむ指でさえ、私にはない「女らしさ」というものが兼ね備わっている気がする。そんな一面が私にもあれば、彼はもっと私を見てくれるんだろうか。そんな馬鹿らしい考えに行きつきつつ、話を続ける。

「でもねー、きーちゃんってばテツくんとばっかり遊んでてね」
「テツくんって…黒子くんだっけ?」
「うん」

私とテツくん、きーちゃんは互いに「バスケ」という共通点がある。が、○にはそういったものはなく。ただ、テツくんとだけは「読書」という共通点があるらしい。というのも、よく2人が図書室で良かった本について話しているのを見かけるからだ。そしてそこには、たまにだがきーちゃんの姿もある。あー、もしかして彼は文学少女が好きなのかもしれない。…だめだ、何につけても思考はすべて「彼」に繋がっていく。

「でね、今度○にきーちゃんとデートってなった時のための服を見繕ってほしいの!」
「デー…、ト」

呟いた○の眉間に皺が寄る。ごく稀にだけど、彼の話をしていると彼女の機嫌があまり良好ではないと気がある。それがどういう事なのか、最悪のシナリオが思い浮かぶため、できるだけ気にしないように心がけてはいるのだが。とはいえ、たまに、そう、こうして○がきーちゃんを見つめている時がある。少しばかり愁いを見せる視線が、引っかかってしょうがない。こういう時、彼はどういう表情をしているんだろう。ちらりと盗み見ると、ぱちりと目が合う。 あ、やっぱり好きだな。

目の前の○とまた談笑しながら、頭の片隅で考える。たとえ○が彼を好きだったとしても、譲るなんて事は絶対にしない、と。早く、一刻も早く、テツくんと○がくっついてしまえばいいのに、と。


 side:M

(120703)
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