4人で出掛ける機会を作ったはいいが、どうやら黄瀬は乗り気ではないようだ。結局予想通りというか、私と黒子くんが並んで歩いているし。黒子くんのことは嫌いじゃない。むしろ好きだと思う。ただ異性として、恋愛対象として見れないのだ。
とにかく、せっかくここまで足を運んだのだ。楽しみつつ、黄瀬のために一肌脱がなくては。

「さっきはこれに乗ったから、次はここが近いかな」

並んで歩きながら、次の提案をする。スタッフの人達の話まで聞いてくれる黒子くんは本当に紳士的だと思う。なんというか、アイツには勿体無い気もするが。そんな後ろからチクチク刺さる視線は痛いと言うよりは、むず痒い。「これに決まりだね」と微笑むと、それ以上の笑顔で返してくれる彼は、なんというか。私にも勿体無いのだ。

いらんことを思案しつつ、いい加減彼を助けてあげようと頭の片隅で決める。「あ、そうだ」なんてわざとらしい声をだしつつ、さつきをお手洗いに誘う。

「あっち?」
「うん、お花摘みに」
「お花、ですか」

いわゆる『死語』と呼ばれる常用句を繰り出すと、見事に苦い顔をする面々。同い年のはずなのに、妙なジェネレーションギャップを感じるのは気のせいだと思いたい。くすくす笑うさつきを連れて、向かいますは夢の国のお手洗い。

噂には聞いていたが、本当に鏡がないのだな、なんて感心する。鏡を見たら現実を思い出してしまうから、というような理由だった気がする。まあ、ここに鏡はなくとも私には鏡のような存在がいるんだけど。今頃、ふたりきりの空間を楽しんでいるのだろうか。考えを巡らせれば、思わず鼻歌も出てしまうってものだ。

「○ー」

不意にさつきから名前を呼ばれる。「なあに?」なんて上機嫌で応えれば「きーちゃんのこと好きなの?」って…。やめてよ、そんな冗談。オンナの勘だと、恋愛感情での有無を答えろだと。こういう時はなんと答えればいいのだろうか。カラッカラの喉へ、ごくり、唾を飲み込む。

「嫌いって言ったら嘘になるけど、好きでもないよ」
「本当に?」
「本当に」
「絶対?」
「うん、絶対」

やたらと食い下がるさつきを疑問に思いつつ、彼女を宥めるように頷く。すると、うっすら目に涙をためたような表情の彼女と視線が交わる。「この前ふたりでファミレスにいたでしょ」って、なんで、どうして、知ってるの。別にやましいことなんてない…わけではないけど、さつきが思っているような展開なんて、ありえないのに。必死に繕うと「嘘つかないで」と、一言。睨みつけるような彼女の視線に観念したように「ごめん」と呟くほか、道はない。

「ファミレスにいたのは事実だけど、私が好きなのは黄瀬じゃない!信じて!」
「あんな状況見せられてるのに」
「お願い、さつき。本当に違うの」
「じゃあなによ。別に好きな人でもいるって証明できるの?」

ドクン、と大きく心臓が跳ねる。ここで白状してしまうべきなのだろうか。このまま逃げ切るべきなのだろうか。たとえ白状したとしても、それからどうするんだ。色々な思考が行き交う中、アイツの言葉を思い出す。

『不毛な恋でも、諦めるには早いんスよね。まだ何もしてないし』

その通りなのだ。私も、奴も、何もしてないのだ。アクションを起こすのはいつも、さつきか黒子くんじゃないか。一言、告げてしまえばいいのだ。

「さつきだよ」

意を決して口にした一言は想像以上に大きい。言っちゃったなーなんて浸るまもなく、目の前の彼女はなんとも言えない表情を浮かべていて。すぐに後悔の念に押されてしまった。ああ、弱いな、私って。

「…ごめん、困らせる気はなかったの。一生言う機会なんてないと思ってて」
「うん」
「それで、そのっ、ほんとっに。黄瀬の、事、は、好きじゃ、ないっ…から…」

頬を伝う涙にハッとする。なに泣いてんだろ。1番泣きたいのはきっと、目の前のさつきなのに。好きな人は私みたいな奴に取られたような気分で。しかも、ずっと仲の良い友達だと思っていた同性が「恋愛感情で好きですー」だなんて、とち狂ったようなことを言い出して。ほんと、なにやってんだろ。この場にはいれないような気持ちになり、とっさに「帰る」と口にする。お手洗いを出る際にも、必死に外にいる二人と目を合わせないようにして走る。黒子くんが私を呼んだ気がしたけど、きっとさつきも戻ってくる。そんな場所に、やっぱり今はいたくない。

出入口まで必死に人ごみをかき分け走る。数メートル後ろ辺りから聞こえる足音が、さつきだったらいいのになんて考えてしまう自分に少しだけ笑ってしまった。


 side:I

(120718)
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