予想外のような、予想通りのような展開になった。テツくんをけしかけて、蓋を開けてみたらきーちゃんと私も含めたところでのWデートになったというじゃないか。○の考えは読めないところも多いのだが、今回ばかりは感謝。決まったその日から入念に手入れをした髪の毛も、体も。彼好みにコーディネートした服たちも。たった一言の「可愛い」のために磨いたものなのだ。 とはいえ、そんな甘いものではない。集合して、いくつかアトラクションにも乗ったというのに、彼の口からそういった言葉は出てこない。それどころか、前方の二人を頻りに気にしている様子に少しだけ憤りを感じる。

「きーちゃん、楽しくないの?」

ユーモラスなBGMを聞きながら、1番口に出したくなかったことを問う。すると彼は、さも当たり前のようにいつもの笑顔を貼り付け「楽しい」と。私が見たいのはこんな表情じゃない、なんて思ってみても彼はそんなこと露知らず。同じように笑みを浮かべて「良かった」と返す。何やってんだろうな、私。半ば自暴自棄であっちがいいだのこっちがいいだの我儘を繰り出すも、何も咎めない彼は優しいのか何なのか。そっと絡めた腕にだって、こんなにも無反応なのだから。

「さってと、さつき。そろそろあっち行こうよ」

振り返りざまに○が何処かへと誘う。あっち?と聞き返せば、お花摘みにだと。あの○でさえも、この夢の国の空気にあてられたらしい。テツくんに失笑を買った○に思わずくすり。あーあ、私、○のそういうところ大好きだよ。恋敵じゃなれけば、もっともーっと好きなんだけどな。


さすが夢の国ってやつだろうか。お手洗いまでファンシーで乙女心をくすぐる。上機嫌な○は先程まで聞こえていたBGMを鼻歌で奏でている。こんなにも楽しそうな彼女に、こんな場所で聞くのは酷だとわかっているのだが…どうにも腹の虫が収まらないというか。気持ちが悪いのだ、なんとなく。

「○ー」
「なあに?」
「答えづらいかもしれないけど、きーちゃんのこと好きなの?」
「…どうして?」
「オンナの勘だよ」

あ、顔が強張った。髪の毛触って、これは名前がすっごく困ってる時に出す癖だ。落ち着きを取り戻そうと再度手を洗う○に「恋愛感情で、だよ」と追い打ちをかける。ゴクリ、喉が鳴る音がした。

「嫌いって言ったら嘘になるけど、好きでもないよ」
「本当に?」
「本当に」
「絶対?」
「うん、絶対」

噛み締めるように頷く彼女を疑うわけじゃない。だけど、自分の目が見たものこそが真実なのだと教えられてきた。瞼を閉じると嫌でも思い出すあの日の光景に、ちくり、涙腺が刺激される。

「でも、この前ふたりでファミレスにいたでしょ」
「あれはさつきも黒子くんも」
「ちがう、その日じゃない。先週の、夜だよ」
「…見間違いだよ」
「嘘つかないで」

きっと睨みつけると、眉尻を下げた情けない顔つきの○が視界いっぱいに広がる。…そんな顔したって、私という人間が見てしまった事実は覆らないというのに。「ごめん」小さく落とされた謝罪に、悔しいとか悲しいとかムカつくとか。たくさんの感情が入り乱れてしまう。

「ファミレスにいたのは事実だけど、私が好きなのは黄瀬じゃない!信じて!」
「あんな状況見せられてるのに」
「お願い、さつき。本当に違うの」
「じゃあなによ。別に好きな人でもいるって証明できるの?」

虚をつかれたように目を見開いた○は、顔を青く赤くコロコロと表情を変える。どうしようもない静寂のあと、一度俯いた彼女はすべて吹っ切れたような顔つきで口を開いた。

「さつきだよ」

空気が凍りついた気がした。なにいってんだコイツとか、なんで私なのとか。もっとマシな冗談言えよとか、馬鹿じゃないのとか。頭ではいろいろな台詞が渦巻くのに、口にできたのは「うそ」の二文字。真剣な顔つきで嘘じゃないと答えられては、次の句が一切出てこないじゃないか。

「…ごめん、困らせる気はなかったの。一生言う機会なんてないと思ってて」
「うん」
「それで、そのっ、ほんとっに、黄瀬の、事、は、好きじゃ、ないっ…から…」

ぽたり。今まで泣き顔なんて見たことない強い子だと思っていた彼女の目から透明な水滴が落つ。あゝ、泣いてしまった。うまく処理できずにぼーっとその光景を眺めていると「ごめっ、帰る!」と言葉を残し、走り去る○。私と彼女の問題だなんてわかってるのに、足は一歩も動こうとしてくれない。それでも、出ないと、変だ。
お手洗いを出ると喫驚したような顔の2人と目が合う。何かを感じ取ったきーちゃんは一直線に彼女を追いかけていってしまった。なんでだろう、今はそんな事ですら笑えてくる。

「…何かあったんですか」
「テツくん…ふふっ、どうしよう。○の好きな人って私なんだって」
「え…」
「きーちゃんは迷うことなく○を追っかけちゃうしさ…やってらんないね」

いくら自分を貶んでみても、現状は一向に変わらない。夢の国に来てまで現実をぶつけ合うなんて馬鹿馬鹿しいにも程がある。わかっているのに、わかっているはずなのに。じわじわと滲みだす視界は、未だに彼が走っていった先を静かに見つめることしかできなくて。


 side:M

(120718)
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