※青桃・下ネタ表現有り

店の雰囲気にピッタリのBGMがかかるセレクトショップ。ここは店員があまり話しかけてこない上に、隠れ家的な店だと昔の仲間であり、現在も人気モデルである友人が言っていたことを青峰は思い出す。かつて服の購入には彼とばかり出掛けていたものだ。いつの間にか2人だったのが、一回り以上小さな彼女達が付いて来ることにより4人になっていたのも懐かしい思い出である。思い出し笑いしそうになってしまった時、トントンと肩を叩かれる衝撃に青峰はビクリと跳ねる。気になっていたラグランTを片手に振り返れば、先ほどまで回想していた黄瀬がひらひらと手を降っていた。ファン避けの為であろう、あまり似合っていない伊達メガネをかけた黄瀬が。

「やー、まさかここで青峰っちに会うとは思わなかったっスよー」
「そりゃこっちの台詞だろ」
「つーか、桃っちは?一緒じゃないんスか?」
「お前ぇらみてーに、いつでもどこでも一緒にいるわけじゃねーよ」
「あ、名前の悪口はやめてくださいっスー」

(名字の、じゃねえよ。お前のだよ)

相変わらず脳内は彼女一色な黄瀬に呆れたような溜息をつく青峰。手に取っていた物を畳み、そっと商品棚に片付け、場所を移動する。もちろん黄瀬はへらへらしながら彼の後ろを追う。やはりこうなるのだろうか。そう考えつつ、黄瀬の言葉に耳を傾けることにした。

「桃っちとはどうなんスかー?」
「どうもこうも、至って変わりはねーよ」
「俺らと一緒で、同じトコに進学したんスからー、そんなことはないんじゃないッスか」
「あ?お前んとこは名字をお前が引っ張ってったんだろうが」
「いやいや、俺と名前の愛の力ってやつっスよ」
「ああ…そう…」

黄瀬は帝光で一緒に汗を流していた時代と変わらない。それどころか、悪化の一途を辿っているようにも思える。海常に進学してから黄瀬と名前は寝食を共にすることとなった。中学の頃から名前一筋な黄瀬を見てきた青峰にとって、その状況はライオンの檻にウサギを放ったようにも思えた。実際は飼い主に待てをくらっている忠犬なのだが、そんな黄瀬家の状況なんぞ彼が知る由もなく。思春期真っ盛りな彼の脳内ではあれよあれよと毎夜行われている可能性のある彼らの営みが妄想される。

「毎晩お楽しみなら、そりゃ愛の力も強くなんだろうよ」
「それが!聞いてくださいよ!青峰っちぃー!!!」

ものすごい形相で黄瀬が迫ってきた時と、地雷を踏んでしまったと彼が気づいたのはほぼ同時であったことを個々に書き記しておこう。

* * *

所変わって、ここは近くの閑静なカフェテリア。先ほどのセレクトショップで半べそかきながら青峰の名前を呼ぶ黄瀬を店員が異様な目で見てきたので、慌てて退避し行き着いた場所である。頼んだばかりのチャイティーを啜りながら、未だにべそかく黄瀬の様子はどう見てもモデル(笑)である。青峰も頼んだばかりのアイスコーヒーを嚥下し、目の前のべそかきに問いかける。

「おい、黄瀬。聞いてくださいって、なんだよ」
「それがっスね!もう!なんていうか!俺!」
「あ、できるだけ手短に頼む」

淡白に告げられた言葉に一瞬だけ目を丸くする黄瀬。青峰のそんな返しも、帝光で鍛えられた彼のメンタルの前では針で刺したような痛みでしかないのだ。別に拒否された訳でもない、むしろ話すことを許可されたのだ。心内は嬉々として、表情はべそかいて黄瀬は話しだす。

「俺と名前が付き合って1年以上経つのは知ってるっスよね」
「あー、もうそんななんのか…早えな」
「まあ、そこはいいんスよ。で、俺らが一緒に住みだしてから、もう5ヶ月近く経つんスけど」
「けど?」
「まだ…シてないんス」
「は?」
「だから!まだ!ヤッてないっつってんだろ!」

頬を少しだけ染めて声を荒げた目の前の彼に青峰の腹筋は限界を訴えていた。辛抱ならんと思った時には、プスっと口から空気の漏れる音。それを皮切りに腹を抱えて笑ってしまい、さらに目の前の彼はへそを曲げていく。

「お前、マジで、言ってんの?」
「大マジっス。まだチューしかしてねーっスもん」
「チューって!小学生かよ!ウケる!それ以上は無理とでも言われてんのか?」
「名前に聞いたことあるんスけど…『結婚するまでしない』とか『涼太とはなんかイヤ』とか言われちゃって、自信喪失もいいとこっス」
「ひーー、腹いてえ。んだよ、一緒の布団で寝てんじゃねえの?」
「おんなじベッドでくっついて寝るから、マジ生殺しっスよ。うなじや谷間が目の前でこんにちはしてたりする日にゃ、理性と大戦争っス」
「よく我慢できんな。俺、初めて黄瀬のこと尊敬するわ」
「はい、ドーモ…つーか、青峰っち達こそヤッたんすか」
「あー、おう。とっくの昔にな」

ブフッ!!!
黄瀬の口に含まれていたチャイティーが綺麗な弧を描いて、床に飛び散る。発された言葉を聞いた瞬間、性欲過多な時期でもある彼の脳内では瞬時にピンク色の妄想がなされたことだろう。口の端に垂れるチャイを指で拭いつつ「マジっすか」と呟くのが精一杯のようだった。

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次回に続くよ!
120726
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