例えば空は晴れているのに、心内は靄がかかっているような日。いうなれば今日のような、おは朝占いで最下位だった時。申し訳程度に持ったラッキーアイテムの効力は0となり、俗に言う不幸が好みに降りかかってくる。こういう日はあまり外出したくないのだが、そういうわけにもいかない用事が出来たので仕方なく緑間は街へ出かけることにした。それがすべての発端である。


「あれ、ミドリン?」

中学を卒業してからしばらくは耳にすることが無かったあだ名と女性特有のソプラノに緑間は思わず立ち止った。 ―だから外へ出たくなかったのだよ。 そう悪態付くが早いか、久しぶりだと手を挙げ駆け寄る彼女が早いのか。あっという間に彼の横には、かつて共に汗を流した仲間の、所謂彼女が立っていた。溜息が自然と漏れるのが彼女にも伝わったのだろう。久しぶりの再会なのにうんぬんかんぬんと黄瀬のお姫様の機嫌が傾いたのが緑間もなんとなくわかり、意味もなくメガネのブリッジに手をかける。

「今日は名字だけなのか?」
「今日はってなによ、今日はって…。まぁ、涼太ならあちらでございますが」

いつもの事でございますと言わんばかりに指さす方向へと緑間は視線を合わせる。すると、そこには可愛らしい女子に囲まれる頭1つ以上大きな黄色い頭。あゝ、以前も似たような光景を目にした事がある。彼が二度、納得するように頷いたのを確認すると名前は「緑間様、緑間様。名前さんは絶賛暇してるので、よかったらお付き合いくださいませんか」と。ここぞとばかりの女性の武器である上目遣いを行う名前だが、虫唾が走ると表情で語る緑間を目にしたとき、マスメディアの情報なんぞ二度と信じるか、と思ったのはまた別の話である。


「で、なんで俺がお前とカフェでお茶しなければならないのだよ」
「だって涼太ってば、まだかかりそうだし。それにミドリン、私と出歩くの好きじゃないでしょ」

図星をさされ、言葉に詰まった緑間はその場しのぎに頼んだばかりのアイスコーヒーへと手を伸ばす。あたりでしょーときゃいきゃい騒ぐ彼女にはきっといくら言っても気のせいという言葉で片付けられてしまうのだろう。自分の彼氏がびっくりするほどに嫉妬深いなど。

あれは中3の頃だった。すでに公認の仲となっていた名前と黄瀬だが、やはり黄瀬のファンというのは後を絶たなかった。そして中の上、といったところだろうか。そんな容姿の名前も人並みに他の男子からも好かれていた。だがしかし、名前がそれらの好意を知る事は一度もなかった。というのも、すべては彼氏という立場である黄瀬が睨みを効かしていたのだ。「名前に近づく奴はぶっ潰す」まさしくこれである。そんな様子を見ていたかつてのキャプテンは「部活にもそれくらいの熱意をもってくれたらよいのだが、な」と常人が見れば失禁してしまうような笑みを浮かべていたのが記憶の片隅にある。これは緑間の中でもあまり思い出したくないものではあるのだが。

他愛もない話を続けていると、入口あたりが少し騒がしい。どうやら迎えが来たようなのだよ。緑間が名前にそう伝えると、彼女は「よく鼻の利く忠犬みたいでしょ」とくすくす笑った。だが彼は知っている。彼女がこっそり黄瀬に向けてメールをしていたことも、黄瀬が視線の片隅で離れていた自分たちをとらえていたことも。

「全く、面倒くさいカップルなのだよ」
「へへっ、ごめんね。いっつも巻き込んじゃって」
「そう思ってるんなら、少しは考えて行動するべきではないのか」
「そこはご愛敬ってことで」

名前ー!緑間っちー!

黄色い頭が尻尾を振ってこちらの事を呼んでいる。名前が申し訳程度に手を振ると、すぐさまこちらへ駆け寄って来る。「緑間っち、お久しぶりっス。んで、名前は緑間っちと何話してたんスか」「何って世間話だよ」へらへらへら。きっとこのまま自分は彼らの世界からフェードアウトしていくのだろう。そう感じた緑間は「そろそろ帰るのだよ」と口にする。また連絡すると各々に挨拶する彼らを背に、緑間は思う。やはり最下位の日には碌な事に巻き込まれないと。


「(旧知の仲と分かっているくせに、黄瀬の牽制する顔は恐ろしいのだよ)」

(120628)
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