黄瀬家の朝は可愛いかわいい彼女の目覚ましで始まる。


「涼太、涼太ってば、起きて」
「うーん、あとちょっと…」

太陽は完全に顔を出し、少しだけ強い日差しがコンクリートを照りつける午前7時。寝室には黄瀬涼太、彼自身の匂いと彼の最愛の人である彼女、名字名前の匂い、そしてキッチンから漂うおいしそうな香りが混じっている。朝が少しだけ…、訂正、すごく苦手である黄瀬は先ほど発した言葉を最後に、彼女の香りがする枕へと顔を埋める。勿論それを容認するような名前ではない。

「あとちょっとって、この前もそういって寝かせてあげたら小一時間とは言えない程寝てたじゃない!」
「この前は…部活で、疲れてて…」
「それに今日は部活が休みって言っても、11時から撮影なんでしょ?嫌だよ、寝ぼけ眼で撮影に向かって木村さんにねちねち言われちゃうの」

木村、というのは黄瀬のモデル事務所のマネージャーである。そう、たった今名前から発された「嫌だ」という単語に過剰反応し、うっすらと目に涙を浮かべている彼は世を瞬く人気高校生モデルなのだ。

「名前…、今いやって言ったッスか?」
「はぁ?言ったけど」
「こんな俺、嫌っすか?嫌っちゃうッスか?」

 ― なんでこの男はこんなにも馬鹿なんだろう。
名前はふぅっと小さく溜息を吐き、目の前の大型犬へ「別に涼太が嫌いだとは言ってないでしょ」と声をかける。

黄瀬涼太−− 彼の身長は高校生の平均のそれを優に超えている。おおよそ190センチある彼と名前の身長差は頭1個分以上だ。そんな外見とは似ても似つかず、彼の中身はヘタレわんこそのもの。お化けよりもなにより、名前に嫌われることを恐れる忠犬なのだ。

先ほどの嫌ってない発言を受け、よかったと言わんばかりのだらしない顔をしている黄瀬。の上にかかっている布団を剥ぐ名前。にキスを迫る黄瀬。を叩き落とす名前。

「痛いッス!朝から名前の愛を確認しようとしたのに、名前の愛ってば痛すぎ!」
「そんな確認する暇あったら、さっさと起きてください」
「えー、同棲カップルの醍醐味と言えば『おはようのチュー』っすよ?」
「寝言は寝て言え。あと同棲じゃなくて、同居だから」

『これは同棲、ここは二人の愛の巣』だと言い張る黄瀬と『これは同居、ここはシェアハウス』だと言い張る名前。

これは傍から見るとただのバカップルの小競合いを日々飽きもせずに続ける黄瀬カップルとそれを見守る仲間たちの日常のお話。

「名前、名前〜、名前っち〜」
「はいはい」
「俺、チューしないと起きれない体にたった今なったッス」
「ずっと寝てろ」

(120620)
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