試合開始直後、黒子くんが相手からボールを奪い、すぐさま火神くんがダンク。その際にバキッという音がして、目が点。そんな簡単にバスケットゴールとは外れるものだろうか。誰かのボルトがさびてるなんて声が聞こえるが、だとしても外れるのか。というか、こんないいとこの設備だ。修理は一体いくらするのだろう。そんな現実的な問題を考えている私とは裏腹に、壊した当人やリコ先輩はしたり顔である。顔を歪める相手監督に心の中できれいな土下座を披露しておいた。

それから、とうとうキセキの世代とやらの黄瀬涼太が出てきた。割れんばかりの声援があるあたり、人気モデルって言うのは嘘ではないらしい。なるほど、ヒーローは遅れて登場ってか。そう呟いた私の声が聞こえていたのか、近くの降旗くんにげんこつを頂いた。バスケの先輩の愛は痛々しいです。

黄瀬涼太が出てきてから目の前で繰り広げられるボールの応酬に、思わず口をあんぐりとしてしまう。これは私の知ってるバスケとは縁遠い、レベルが違う。先輩たちも火神くんも黒子くんも、こんなにすごいんだ。それ以上に、あの黄瀬涼太。レベルが違いすぎる。相手監督が出し惜しみするのが素人でもわかる。

「どう?うちのバスケ」
「なんていうか、すごいです」
「でしょう」
「相手が強いのも素人目でわかるんですけど、」
「けど?」
「勝ってほしいです」

結論からいうと、我が誠凛バスケ部は海常高校に勝利した。黒子君が黄瀬涼太と衝突した際に怪我をした事を除けば、大変喜ばしいことである。きっと皆も喜び勇んでいるのだろう。

というのも、私、名字名前は只今バイト先より連絡が入り、その電話に応えるために体育館外へと出てきたのだ。しかもそれは今からヘルプで出てきてほしいというもの。うぅ、先輩たちとハイタッチとかやってみたかったのに…。悲しんでいてもしょうがない、と思いつつ電話を切り、バイト先へと足を向かわす。


「おっ」
「あ、誠凛の…」
「ど、どうもです」

向かわそうとした。のだが、涙を流す黄瀬涼太と出くわしてしまった私の足は自然とストップ。彼の事を何も知らないとは言え、ごくごく普通の女の子である私は、いわゆるイケメンには弱いのです。しかも相手は泣いているときた。ここでそのまま出て行くのは、こう、印象が悪いにもほどがあるというか。

「えっと、お疲れさまでした」
「あー…、ありがとうっス」

へらり。目に涙をためた彼が浮かべる笑顔には違和感しか感じずに思わず顔を顰めてしまう。どうかしたんスか、という声にハッとして本音がぽろり。どうやら私は意外にも脳みそと口が直結しているタイプの人間らしいのです。

「その、えーっと、営業スマイル?ですかね。今は浮かべなくてもいいんじゃないんですか?」
「え、」
「私、黄瀬さんの事よく知らないし、そんな笑ってられる心情じゃないというか…あ、決して勝者の余裕みたいなのじゃなくって!悔しいときは悔しいって気持ちが大事というか」
「…」
「えーっと、えーっと…ば、バイトあるので失礼します…お疲れさまでした」

これが所謂言い逃げってやつだ。そう思うが先が、駆け出すが先か。肩から落ちかけた鞄をグイッと引き戻し、海常の校門に向かい走る。バスケ部の皆にもろくに挨拶できてなかった事を思い出して、また一歩遠ざかった気がして自己嫌悪。くそう、誰だ、バイトなんか始めるって言った奴。なんであんなところに黄瀬涼太がいるんだよ、あぁもう!
校門へ向かうまでにすれ違った、変なカエルの人形を持った男子学生を横目にバイト先へ走る。明日謝ってみよう。お詫びにレモンの蜂蜜漬けなんて持ってったら喜んでもらえるだろうか。あ、なんかマネージャーっぽいことしてるな、私。

(120627)
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