幸男からインターハイ敗退の連絡が来たのは、試合が終了したであろう時刻から数時間も後の事だった。バイトだからと観に行けなかったのは心残りだが、彼らの勝利を願わなかった時間はなかった。 (そうか、負けちゃったのか) 焼けるような胸の痛みは、きっと悔しいからだと思う。彼が感じたであろう痛み思うと屁でもないのだが、あゝ悔しいな。彼の頑張りを近くで見てきたから、自分のことのようにも思えてしまう。携帯のディスプレイに落ちた雫は、見ないふりして、そっと人差し指で拭った。 「よっ」 「よっ、…お疲れ様でした」 「おう、ありがとよ」 敗退を告げたメールに添えられた『バイト終わり、いつものとこで』という文字の羅列に誘われ、近所の公園に立ち寄る。ベンチに腰掛ける幸男の目は、少しだけ、赤い。泣いたなんて事は分かりきってるのだ。そして、彼がそんな弱さを見せることを一番嫌っていることも知っているから、見ないふり。 「惜しかったね」 「まあな」 「悔しい?」 「当たり前ぇだろ」 「だよね」 そっと隣に腰掛け、言葉をかける。次はどんな言葉がいいだろう。彼は人一倍真面目で、一本気で、それでもって他人のことばかり気にかけるのだ。長年『幼馴染』として近くで彼を見てきたのだ。普段から言葉少なな彼が口を噤んでいることが、どれだけ悔しいのかを物語っているじゃないか。 「でも、終わっちゃったんだよね」 「ああ」 「幸男はさ、頑張ったと思う」 「…そうか?」 「優勝することがケジメなんて、あんたが決めたケジメでしょ。それ以上のもんが得られたなら、それでいいんじゃないの?だめ?」 「っんで、名前はなんもいってねーのに分かんだよ」 「私と幸男だから」 にかっと笑って告げると、くしゃり頭を撫でられる。あーあー、せっかく整えてきた髪の毛がー。隣を盗み見ると、何か吹っ切れたような表情の幸男。贔屓目かもしれないけど、やっぱかっこいいよ、あんた。 「お前さ、冬は観に来んだろ?」 「冬?もう引退じゃないの?」 「バーカ。バスケにはウィンターカップって大会もあるって教えただろ」 「あれ、そうだったっけ?」 おどけてみせると釣られて笑顔になる彼にホッとする。大丈夫、あんたなら海常を日本一にできるよ。数時間前までは皺を寄せていたであろう場所も、今は力なく緩んでいる。何時だって、何処でだって、彼の肩の荷の降りる場所になれるなら、私はすっ飛んでいくのにな。 「はー、やっぱ俺、名前の事好きだわ」 「…うん、私も幸男のこと好きだよ」 「ったりめーだろ、知ってるわ」 ぺしり。冗談交じりに叩かれた背中は精神的な痛みを孕む。バカはそっちだ、バーカ。何時まで経っても抜けられない『幼馴染』という名の泥濘は、日に日に深くなっていくのです。 無い物ねだりの僕ですが、 (君だけはどうしても手に入れたいのです) −−−−− ▼めいか様リクエスト 笠松くんと同級生で親友以上恋人未満の幼馴染ちゃんのお話 リクエスト有難う御座いました。 120717 |