あいつに告白されたのは、気の迷いなんじゃないのか。そう思うことが日に日に増えていくように感じる。教室の片隅で可愛らしい女の子たちと楽しそうに話してるのは、紛れも無い私の彼氏…、だと思ってる男だ。友人たちにそれとなく相談しても『高尾くんは名前のこと、ちゃんと好きだよ』なんて、やんわりと返される。というか、ちゃんと好きってなんだ、ちゃんと好きって。

視界に入るだけで不快になる光景とオサラバするために、瞼を伏せる。もやもやとした、なんとも言えない黒い感情は大きくなっていくばかりで。骨休めにしかならない溜息に乗って、僅かな幸せが逃げているようだ。今朝、なんとも言えない表情で緑間が手渡したラッキーアイテムはカバンの中で眠っている。頬杖をつき、全くもって意味を持たないそれをどう処理すべきか悩んでいると、悩みの元凶とも入れる和成が直ぐ側までやってきた。

「名前ー、…って、元気ねぇじゃん」
「ないわけじゃないよ」
「いや、ないっしょ。どれどれ、高尾くんに話してごらん?」

ね?と小首を傾げる和成は、まあ可愛い。キュンとなる胸を誤魔化すように「なんでもない」と告げる。すると何を感じ取ったのか、目の前の彼は眉宇を寄せていた。何か考えこむような仕草を見せると「放課後、いつものカフェね」とだけ告げ、自分の席へと帰っていった。時刻は間も無く、午後の授業がスタートする頃合いだった。


いつものカフェの、いつもの席。いつものようにアイスチャイを注文し、和成が来るのを足をぷらぷらさせながら待つ。何を言い出されるのかわからないのだが、悪いことではない気がする。…というのは、そうであって欲しいという願望から来るものだが。注文したチャイに再び口を付けようとしたときに彼はやって来た。同じようにいつもどおりの注文を済ませ、向かいの席に腰掛ける。

「お疲れ様」
「どーも。つっても、今日はミーティングだけだったんだけどね」

テーブルに置かれたアイスコーヒーを一口煽った和成は、早速と言わんばかりに本題へと話を進めようとしている。テーブルの下で握られた手に力が籠った気がした。

「名前はさー、俺に言わなきゃなんねぇ事とか、ない?」
「…お昼も言ったじゃん、なんにも」
「ないわけないだろ?そんな顔しといて」

ツンと突かれる唇は自然とへの字を描く。拗ねてます、へそ曲げてます、ご機嫌ななめです。そういう表情とも取れる顔に和成はくつくつと声を潜めて笑う。

「そんな拗ねんなって」
「だって…」
「だって?」
「和成が悪いんだよ。いっつもいーーーっつも可愛いオンナのコたちと話してるし、私といる時より楽しそうだし」
「それで?」
「それで…、それで、そういうところ見ちゃうと、不安になるっていうか、和成の彼女って私でいいんだっけって思っちゃうっていうか」
「うん」
「和成みたいに人気者でもないし、バスケが上手いわけでもないし、特別かわいいわけじゃないし。なんで私がいいんだろうっていうか」
「…名前はさー、勘違いしてるよね」
「えっ?」

視線は斜め45度下方をキープ。向かい側に置かれた彼のアイスコーヒーはすでに汗をかいていて、滴がツーっとつたい落ちる。そんな様子を眺めつつ、和成の次の句を待っていると、頭をぽんっと撫でられる感覚。視線だけ、その衝撃の方へと向けると、力が抜けたような笑い方をする和成と目があった。

「俺が名前を選んだんだから、いいに決まってんだろ。お前でいいんじゃなくって、お前がいいんだよ」
「それは、そうだけど…」
「しょーもない事きにしてんなぁ、お前」
「しょーもなくないもん」
「ようはさ、妬いてんだろ?」

『妬いてる』聞こえてきた単語にドキッとすると「ビンゴー」と先ほどよりも、気持ち高めな声がする。嫉妬、と言われてしまえばその通りなのだ。要は羨ましかったのだ、堂々と彼に接する彼女たちが。

「……そうよ、妬いてたんだよ。悪い?」
「悪かねーよ、嬉しい」

幸せそうに笑う彼に、毒を抜かれたような表情しか出来ない私もなかなかの末期患者のようだ。「そんなに俺のことが好きなんだー」なんてにこにことしている彼に、ちょっとだけ素直になってあげようと心に決めた。



「俺も好きだよ、お前のこと」


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▼ゆん様
高尾くんとお付き合いしている同じクラスの平凡な主人公が、人気者になっていく高尾くんに不安になるお話。
リクエスト有難う御座いました。
120709
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