別段、彼を好きになる理由なんてなくて。言ってしまえば、私の中の彼なんて[先輩]のそれ以上でも、それ以下でもなかったはずである。如何せん、こうして同じテーブルでお茶するのにも全く問題ない。無問題、無問題、モーマンターイ!の世界である。断じて意識などしていない………ハズだ。
(だったらどうして会話が続かないんだ、名字!)
先ほどから「あー」とか「うー」となる唸り声はあげるものの、きちんとした言葉には決してならない私の声。はたまたそんな私を気にかけもせずにズズっとコーヒーをすする氷室さんには、ちょっとばかし神経を疑う。(もう少し乙女を気遣うべきでしょ)
「ほ、本日はお日柄もよく…」
「素敵な曇り空だね」
ですよねー!と心の中で大袈裟に相槌を打った。そりゃ午後からは降水確率90%ですし?(良純情報だけどね!)ていうかさ、こんな息苦しい雰囲気になるなら、何故私を連れ出した!答えろ、氷室辰也!
そーんな気持ちもこめて氷室さんの方を向くと、ジーッと私を見つめる氷室さん。ちょ、そんなに見つめないで下さいな。いくら私でも穴が空いちゃうってば。
「名字はさ…」
「…はい」
「俺のこと好きなの?」
「は、はい
…………ん?」
惹 か れ る 心 と 戸 惑 い
(やっぱりかー)(待て待て待て!今なんと?)(だから、俺のことすk)(ギャー!前言撤回!)