高校生が輝く季節がやってきた。さんさんと降り注ぐ日差しに少しでも対抗しようと日焼け止めを塗りたくっていると「そないに塗っても意味ないで」と友達から笑われてしまった。そう言いたくなる気持ちも分かる。なんてったって私たちが向かっているのは、空調も効いている体育館なのだから。

室内はがやがやと騒がしく、それ相応に人が入っていると見受けられた。友達と空いている席を探していると偶然クラスの男子が「こっち空いてんで」と呼びとめてくれ、無事客席へ。


「うちのバスケ部は強いって聞いてんけど、ほんまやろか」
「全国常連校らしいで」
「ほな、めっちゃ強いんとちゃうん?」


母校の強さがどれほどのものなのかなんて、計り知れない。というよりは、高校1年目で部活と無縁の生活を送っていると、インターハイ常連校と言われてもピンとこないのだ。わいわいと談笑に花を咲かせていると、ふと空席を教えてくれた男子が「うちの赤司くんもバスケ部やんな」とつぶやく。突然の名前に驚き、喉の渇きを潤すために飲んでいたオレンジジュースが勢いよく気管に入りむせかえってしまった。けほけほと噎せこんでいると、にやにやしだすクラスメイト達。


「なんや、名字さんって赤司くんの事、好きなん?」
「ちがっ!」
「そうなんよ〜、このこ、赤司くんの試合が見たいーってうるさかってんよ」
「ちょっと!」
「ほーなんや」


僕たち楽しんでます、という空気を隠す気は全く感じられない笑いに眉をひそめる。赤司くんの試合が見たかったのは、単に彼がスポーツ特待生だからという理由で。どれくらい上手いのかっていう興味本位で。そりゃあ赤司くんの事が好きか嫌いかで言ったら好きなんだけども。
ぶつぶつと呟くも華麗にスルーされてしまい、挙句の果てには「ほら、はじまんで」という一言でシャットアウト。今日の目的はこの試合であるため、煮え切れない部分はあるが、試合に集中する事にしよう。

赤司くんの試合を見た感想は「すごい」に尽きる。一年生なのにレギュラーを勝ち取ったという彼の実力には驚かされる一方である。

出口までの道のりを今日の感想を話ながら友達と歩く。私の中ではバスケはそんなにメジャーなスポーツではなく、オリンピックなどに出て初めてテレビ中継を見るくらいで。そんな考えを覆すようなゴールの応酬は圧巻ものだった。なーんて事を話していると「名字さん」と私を呼ぶ声がした。振り返ってみると、そこにいたのはオッドアイが印象的な彼。「あー、いっけない。今日は歯医者だったー」なんて大根役者もびっくりの棒台詞を吐いた友達は、そそくさと家路を急ぎ、人があまりいない廊下には彼と私だけになった。


「お、つかれさまでした」
「ありがとう。来てくれてたんだ」
「うん、赤司くんがバスケの試合出てるとこみたことあらへんかったから」
「そっか…。どうだった?」
「えっと、うまく言葉にでけへんのやけど、ほんますごかった。赤司くんのな、あの、なんていうシュートかわからへんねんけど、シュってやったやつとか。綺麗で見とれてもうてん」
「…あ、うん」
「あ、ごめん。何か気に障るようなこと言うてもうたかな?」
「いや、予想外に褒められて、さ」
「ごご、ごめん…。でも、ほんまに綺麗やと思ってん」
「うん」
「わたし、赤司くんのバスケ、好きやで」
「…ありがとう」
「ううん、こちらこそ素敵な試合をありがとう」


それじゃあ、と手を振り踵を返すつもりだったが、それは叶わなかった。ぐいっと左手を引かれる感覚に重力は逆らえず。動揺を隠せないまま、引かれた方を振り返ると、眉尻が少し下がった彼がいた。


「えっと、…あかし、くん?」
「あの、さ」
「はい!」
「あのさ、今日一緒に観てた男って、誰?」
「誰って、クラスメイトやで?」
「あー…、違う、ごめん。…あいつらのどっちかが、彼氏とかってのは?」
「え!?ありえへん!ほんまありえへんし、彼氏なんておらへんよ!」


予想外の赤司くんの問いにぽろぽろと事実を零す。彼氏がいるんですーなんて見栄張りたいところでもあるが、相手が悪い。問うてきた彼は、現在進行形で私が気になって仕方ない人なのだ。「彼氏はおらへんけど、気になる赤司くんなら居てます」と心で呟き、一人舞い上がる。頬が赤く染まった気もしたが、ここは一生懸命否定しておく事にしよう。




「彼氏、いないんだ」
「うん!おらへん!」
「じゃあ、チャンスか」
「え?」
「いいや、こっちの話」

−−−−−
似非関西弁
120705
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -