地球の事を考えた温度設定は心地よい。そんな風を感じながら、今日も図書室で惰眠を貪る。本来は読書を嗜む生徒が行き来する場所だが、たまに私みたいな生徒がいる。

(あ、今日もいた)

後輩たちが入学してきて、暫く経った頃だろうか。やたらぼやっとした縁取りの後輩が図書室を訪れだした。私から見ると少しばかり小難しい本の読書を励む彼の事を「文学少年」と密かに呼んでいる。やたらと線が細く、見失うほどの影の薄さから部活は文系だろうと勝手に予測している。そんな彼を観察するのが私の日課のようにもなっていた。

ある日の事だ。いつものように文学少年は数刻本を読むと、何冊かを手に取り貸出カウンターへと向かう。おお、今日もあんな気難しい本を読むのか。なんて思いながら、彼が出ていく姿を眺めていた。ガラッとドアが閉まった音がしたので、もうひと眠りしようかと視線を元の位置に戻すと、図書室とは関係の浅すぎる黒いリストバンドが目に入った。彼が座っていた位置にあるので、おそらく彼のものだ。勝手に文化部だと思っていたが、どうやら運動部らしい文学少年はこれを忘れてしまった事に気付いているんだろうか。見つけてしまったという第一発見者のような感情と困るかも知れないという親切心が私の脚を動かす。まだ近くにいるんだろう、届けてしまえ。

ぱたぱたと小走りし、文学少年の後を追う。前述の通り、彼は影が薄いのだ。つまり見つけられる可能性は、少ない。わずかな望みをかけて廊下を歩く。すると、よく見る背中を見かけた。


「あ、文学少年!」

声に出して気付く。彼は自分のことがそんな分に呼ばれてるなんて知らないじゃないかと。歩幅を少し大きくし、早歩きで彼に近づく。いつも近くで見ていた背中がすぐそこまで来たときに、そっと肩を叩く。

とんとん、

「はい」
「えっと、これ、君のだよね?」
「ありがとうございます、…名字、先輩」
「もう忘れないようにね」
「…わざと、ですよ」


返答が返答になっていない声に思わず「ん?」と疑問符を漏らす。すると目の前の彼は年下とは思えない大人びた笑みを浮かべていて、ぐっと胸が締め付けられる。

「いっつも僕のこと見てますよね。だから、こういうことしたら気付いてくれるかなって」
「あ、うあ、う…」
「ああ、先輩だけじゃないですよ。僕も名字先輩のこと見てましたから」
「えっ」
「すごく、綺麗な方だなって」

先ほどとは違う、ふんわりとした笑みを浮かべた彼が呟く。なにそれ、ちょっと、よく分からない事になってるんだけど。ごっちゃりとした頭ではうまく処理できない。うんうん唸りながら現状を分析していると、ふふっと笑う声が聞こえる。

「あまり深く考えなくていいですよ」
「いや、それは無理というか」
「先輩が僕にもっと興味を持ってくれればいいです」
「そうは言われても」
「黒子です」
「ん?」
「文学少年じゃなくて、黒子です。下の名前はもっと名字先輩が気になってくれたら教えます」

それじゃあ、と去っていく彼に情けない声しかかけれず。優しく香る石鹸の残り香が私の脳に「考えろ」と刺激する。一体全体どういうことなのだ。都合良く解釈してしまったら、これじゃまるで…―――

ぼくらはラブロマンスを焼いて食べる

(120705)
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