人間は「ギャップ」というものにつくづく弱い生き物だと思う。例えば前髪がいっつも長くて、ビン底メガネの女の子が髪の毛をあげて、メガネを外したときの顔とか。勉強は得意なのに、運動は苦手とか。例にもれず、自分もその一人らしい。裸眼で生活していると思い込んでいた想い人は、実はコンタクトだったらしい。なぜそれが分かったのかというと、本日は珍しく厚めの眼鏡をかけて登校してきたのだ。事情を訊けば「コンタクトを買いに行くことを忘れてた」らしい。なんとも間抜けな。

「じゃあ黄瀬はそのメガネがないと今日は生活できないってこと?」
「そういうことッス。あー、どっちにしろ今日は部活できないのかー…」
「ふーん…」

眼鏡をかけても見目麗しいこいつは今日は部活ができない事を相当悔んでいるらしい。そして、久しぶりの眼鏡生活は予想以上に彼の行動を制限しているらしく、眉間に皺が寄っている。そんなお顔もカッコいいのだが。あ、これが惚れた弱みってやつか。

「ねぇ、黄瀬。ちょっとだけ眼鏡かして」
「えーいやッスよ。これないと本当に何も見えないんスから」
「ちょっとだけだから」
「無理っス」
「…隙あり!」
「あぁ、ちょっ、名前っち!」

嘆く黄瀬を横目に眼鏡をひっさらい、かけてみる。おお、おお、視界が廻る。外見通りの度の強さにくらりとする。これはちょっととはいえ、長時間は掛けてられないなと思い、そそくさと眼鏡をはずすと視界いっぱいに端整な顔立ちが広がっていた。

「え、ちょ、黄瀬」
「うーん、もう眼鏡かけてないんスね」
「いや、その、ちか…」
「これだけ近寄んないと、名前っちが眼鏡かけてるかどうかも見えないんス」

黄瀬がしゃべる度に顔に息がかかる。やばい、やばい、これは心臓に悪いって。どんどん熱を帯びていく頬を隠したくて、少しずつ後ずさり。下がるたびに近くなる黄瀬の行動に本当は見えているんじゃないかと疑ってしまう。それよりも先に眼鏡を返せばいい話だが。

「も、近い!」
「じゃあ眼鏡返して」
「返すかえす」

眼鏡を返すと「あーみえるー」なんて感想を漏らす黄瀬。そんな黄瀬とは裏腹にばくばくと脈打つ心臓を必死でなだめる私。ゆっくりと深呼吸を繰り返していると、口端をあげた黄瀬を視界の端に捉えた。「何よ」と強がってみると「顔赤いっスよ」と。



「せっかくだったからキスのひとつぐらい、しておけばよかったッスね」

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ニヒルな小悪魔
120701
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