誰かがページをめくる音も鼓膜に響くほど静かな図書室は過ごしやすい環境設定が成されている。暑くもなく、だからと言って長時間いても寒くはならない温度は、ゆっくり過ごすにはちょうど良い。大好きな、黒子くんがやってくるまで、あと1時間。

読んでみたかった本が丁度良く返却されていた。本棚からそそくさと取り出し、カウンターにて一連の手続きを行う。実を言うとこの本、図書室を通じて仲良くなった黒子くんにオススメされていたものなのだ。大好きな彼が好きなものを好きになりたい、なんて乙女思考だろう。ページをめくる指にも熱が籠る。序盤まで読み進めて、はたと気づく。どうせなら家で読もう。黒子くんには序盤まで読んだ事を伝え、残りの感想はまた後日話したいと伝えれば…会う口実ができるではないか。自分の策略に、にやり。ふふっと声が漏れそうになるのを抑え込みつつ、鞄に本をしまう。黒子くんがやってくるまで、あと40分。思ってたより時間があるので、少しだけ、ほんのちょっとだけ惰眠を貪ろう。

ガラッという来客音で、思考のみが目覚める。誰が来たのだろう、確かめたいのに体はまだ眠っていたいと言う事をきいてくれない。まどろむ意識の中で嗅ぎなれた甘い香りが鼻を竦めた。「あれ、名前さん…寝てる?」ああ、黒子くんだ。私が寝ちゃってたから少しだけ困ってるみたいだ。困り顔の黒子くんも見てみたいな。でも、もう少しだけ黒子くんを困らせてみたいな。高鳴る胸を抑え、平然と寝たふりをする私とそれに気付かない黒子くん。きっと今ここは2人だけの空間だろう。「寝てるん、ですよね…」小さな呟きが聞こえた。その声とほぼ同時にぐっと強くなる甘い香り。   えっ…――――。

ガラっ、ピシャ。焦りを含んだ足音が遠ざかっていく。完全に聞こえなくなったとき、勢いよく起き上がる私の体温は急上昇真っ只中。指で触れた唇に先ほどの感触を思い出す。少しだけ触れた彼の唇は、甘い香りのがした。


眠るきみに秘密の
(『すいません、今日は用事があるので先に帰りますね』)(って黒子くんの嘘つき。)


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甘いあまい不意打ち
120701
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