これこれの続編


衝動的に屋上へ連れてきてしまった。衝動的に泣いてる名前抱きしめてしまった。とはいえ、コイツの口から零れる黄瀬という名前が胸が潰れそうなほど苦しく、憎たらしい。いっそのこと俺にしてしまえよ、そしたら絶対泣かせないのに。考えだけはぐるぐる廻るが、どうしても口をついては出てこない。これがヘタレってやつですか、神様。

「っあ、ご、ごめん!」
「お、おう」

我を取り戻した名前が思い切り離れる。ちらりと見えた赤い耳に、ちょっとした期待で胸が高まる。ぐしぐしと乱暴に目元を拭こうとする彼女の手を掴んで、腫れるぞと助言。ですよね、と笑う姿は可愛らしくも痛々しい。

「あーあ、なんで私ってば黄瀬のために泣いてんだろ」
「んなもん、好きだからだろ」
「知ってるっての、ばーか」
「うっせ、ばーか」

憎まれ口を叩き合う。そうだ、この距離感が大切なのだ。できる事なら付き合いたいし、キスもしたい。それ以上だって健全なオトコノコとしてはやってしまいたい。だが、無理なのだ。黄瀬に惚れたコイツを好きになった時点で俺の負けは決まったようなものだというのに。それでも近くで笑った顔が見れたらいい、泣いてる時は誰より味方になってやれたらいいだなんて、馬鹿野郎だな、俺って。

「ったく、お前が幸せになってくんねぇと俺も幸せになれねぇっつーの」
「なにそれ、お父さんみたい」
「そうじゃねーよ」
「はいはい、青峰くんは名前ちゃんが大好きですもんねー」
「あぁ、好きだよ」

――あ、やばい。

そう思った時には、隣の名前の目は見開いてる。冗談だよって言葉が喉につっかえてうまく出てこない。おいおい、どうすんだよこの空気。これ以上名前のキャパシティオーバーな事言って困らせて、何がしてぇんだよ、俺は。友達としてなって、冗談だよって、言え。出せ、声に。

「や、っぱりか」
「そうだよ、じょうだ…は?やっぱりってなんだよ」
「だーかーら、私はそこまで鈍感じゃないって言ってるの」
「…んだよ、それ」
「ごめん、青峰が言わないから気付かないふりしてた」

本当にごめん、と眉を下げる名前に何も言えなくなる。きっと名前は他にも気付いてたのだ。俺か名前が口に出してしまったら、この心地よい距離感が崩れてしまう事も。くしゃりと髪をかきあげ、溜息を吐く。不器用だな、俺らって、本当に。

「ばれてちゃー、しょうがねぇか」
「ん」
「好きだ、名前のこと」
「うん」
「答えは聞かなくても知ってるから、頼む…言うな」
「…うん」

乾いたはずの涙が名前の目にまた幕を張る。震えた相槌が耳を掠めたときに、ツンと涙腺が刺激された。あーあ、やだやだ。こんなはずじゃなかったのに。空を仰ぐと「お前ら青春馬鹿だな」と言わんばかりの雲ひとつない空。遠くではチャイムの音が鳴り響いている。

「あー、サボるか」
「そうだね」
「お前泣いてるし」
「青峰だって」
「…うるせぇ」

初めての失恋は本当にしょっぱくて、喚き散らしたくなるほど苦しかった。



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青峰くん編は完結、かな。
120630
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