これが所謂、お別れデートってやつだろうか。肩から感じるやわらかな温もりと香りを確かめながら窓の外を眺める。さよならを決めたのは此方だというのに、寂しそうに手を絡める彼女に揺らいで、揺らいで。


「もう、別れよう」「やだ」「無理なんだよ、俺ら」「そんなこと」「ある」言い出しっぺというやつ、なのに。泣いてる彼女はあまりにも儚げで、消えてしまいそうで。今日一日楽しそうな名前を見ていたら、忘れたはずの感情が蘇りそうだった。「最後にデートしよう」そう笑った彼女は俺の知る名前とは違う顔をしていた。いつものように手をつないで、いつものように笑い合って。嗚呼、あと少しでいつもがいつもではなくなるのか。

―  駅、この駅を出ますと次は   駅――

「ん…あれ、寝てた」「おはよう」「俊だ、おはよう」「相変わらず一駅前で起きるのは得意だな」「まあね」くすり。彼女が纏ったほんわかとした空気が好きだった。ほんのり色づく頬も、くしゃっとなる目元も。「もう少し寄りかかっててもいいぞ」「ん、だね。思い出思い出」そんな笑い方は好きじゃないって、前も言っただろうが。って、そんな顔をさせてるのは俺か。ごめん、馬鹿だからごめんって言葉しか出てこないや。口には出せないけど気付いてほしくて、ぎゅっと手を握る。

「あ、電車降りなくていいからね」「なにが」「ホームまで送らなくていいよ」「あぶないだろ」「そういうとこ、期待しちゃうから」「…ごめん」「いいよ、私こそごめん」笑うな、笑え。笑うな、笑え。ぐるぐると思考を支配する彼女に最後になんて声をかけたらいいんだ。最後って、最後ってなんだよ。違う、最後にさせたのは俺じゃないか。

―  駅です。  駅、この駅を出ますと次は――

プシューっという音ともに生温かい空気が車内に入り込む。「着いちゃった」「うん」「…じゃあ、ね」繋いでいた手が離れる。温もりがあった肩が冷え込む。立ち上がった瞬間に鼻を掠めた名前の匂いにクラリ。「 ―っ、名前」プシュー。ドアが閉まったと同時に響いた俺の声に彼女は気付かない。彼女の残り香がする車内はひどく心臓に悪い。

手を離した直後に離すべきではなかった事に気づくなんて。大馬鹿野郎ってのは、俺の事を言うらしい。

悲劇サンプルを提供します

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1000hits、伊月先輩です
gtorの曲は胸をえぐります

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あと一駅で/G O T R
120629
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