吐く息は窓を白く濁す。夕焼け色に教室が染まる、午後。ちく、たく、時計は止まらないのに、私の心だけはあの日に忘れてきたような気分になる。窓際の一番後ろ、所謂特等席、に腰をかけ目を瞑る。瞼の裏側なんて見えやしないのに、ちらちらと姿を現したあの日の私に苦虫を噛潰す。

わざわざ後を追うように同じ高校に来たくせに、未だ言葉を交わすどころか目すら合わせられないとは、之如何に。自嘲するには持って来いな状況にも笑えない。机に伏して、考え込む。会ったらなんて話そうか、久しぶり?元気?私の事忘れた?未練がましくも好きだよ、ってか。

綺麗にテーピングを施した手は相も変わらず。もうあの手で撫ぜる人が他にできてしまったんだろうか。それは、やだな。一方的な嫉妬だとわかっていても眉間に力が入ったのがわかった。ぎこちなく撫ぜる手は不思議と安心感をくれた。あまり女子と触れ合うことが無いのだろうな、そんな不器用さも大好きだった。そしてその気持ちは今も変わらず。

まるでストーカーのような執着心だと友人に言われたっけか。家にまでお邪魔してないよと伝えると、そういうことじゃないと頭をはたかれた。確かに高校まで追っかけてきてしまった事は認めざるを得ない事実であり。が、しかしだ。二年になり、同じクラスになれたのに。互いが互いを避けるようになってしまっていたのだ。まだこんなにも好きなのに。

ぎゅうっと締め付けられ痛む胸をゆっくりと撫でる。考えるだけでこんなにも苦しいのに、直接会ったらどうしたらいいのだ。他の人ならば適当に嘘を並べりゃいい話だが、彼の前じゃきっと無理である。耳に残る私を呼ぶ彼の声に涙腺がひどく刺激される。戻る事は出来ない道なのに、後ずさりしてしまいたい気分だ。

ガラッと音がする扉に、伏せ入っていた体を跳びあがらせる。「名前…」先ほどまで酷く欲していた声で私の事を呼ぶ。「…真、太郎」口は予想以上にカラカラだ。久しぶりだね、その一言すら言えない張りつめた空気に雁字搦めにされたような気分だ。いつものようにメガネのブリッジを押し上げ「こんな時間まで何をしているのだよ」と声をかけてくる。あ、え、あ、駄目だ。声が出ない。ガラガラと崩れていく音を聴きながら、彼の元に縋るまでさほど時間はかからず。

その記憶忘却拒絶する

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1000hits・緑間くんです
忘れられないがテーマでした

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忘れ物/メ レ ン ゲ
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テーマ「人外ファンタジー」
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