※WJ170Qネタばれあります


別に昔の仲間だからどうとか、腹が立つ奴だからとか、そんな私情を挟めるような試合じゃないことは重々承知している。この大会が笠松先輩たちと公式な場で試合できる最後の大会なのだ。気を張らなければ。

そう考えれば考えるほど、頭に浮かぶのはかつての仲間たちの顔。一方は思い出せば思い出すほど腹立たしいのに、もう一方は思い出すほど胸が苦しい。あいつも今頃この会場の何処かに居るんだろうか。もしかして、また怖い思いをしてるんじゃなかろうか。それは今も変わらずバスケを続けていたら、の話なのだが。そもそもこの広い会場で彼女を見つけようというのもおかしな考えだが。

「あーもー、無理っス。ちょっと外に出てきます」
「あぁ?…ったく、くれぐれも体は冷やしすぎるんじゃねーぞ」
「うっス」


冬の冷たい風に吹かれてみれば、物理的にも頭が冷えるんじゃないのか。なんて単純な思考で会場外のバルコニーへ向かう。さすがに12月の風は堪える。遠くに見える色とりどりのイルミネーションがまぶしい。なんといっても季節はもうすぐクリスマスだ。あまりいい思い出がない、そんな季節がまた巡ってきたのだ。

「あれ、黄瀬くん?」

色褪せた過去に思いを馳せていると、懐かしい声に呼びもどされる。伏せがちだった視界を開け、声のした方を振り返ると、記憶よりも少しだけ大人びた名前がいた。

「名前、」
「お久しぶりです」
「バスケ、続けてたんスね」
「バスケ自体は嫌いになれないから」

ちょっとだけ哀しい色を宿した笑顔で答える名前に黒子っちが重なる。彼女もまた黒子っちと同じようにバスケと距離を取った。同じ理由かと問われれば、答えはNOだ。確かに名前も帝光のやり方に疑問を抱いていたが、俺らが勝つことを喜んでくれていたのも事実。彼女がバスケを嫌いになったかもしれないと、距離をとった理由として考えらるのはやはり脳裏にちらつくあの男の存在なのだ。

「名前はどこ高なんスか」
「んー、内緒」
「誤魔化さずに教えなさい」
「黄瀬くんはー…、海常か」
「そっス」
「てことは次、…なんでしょ」
「…ショーゴ君、見たんスか」
「ちょっとだけね」

誰よりもバスケの事を好きでいてくれて、誰よりも俺らの事を応援してくれた彼女がある日突然、バスケ部から姿を消したのだ。教室に行けば会える事なんて分かっていたけど、きっと誰もが彼の仕業だと思い近づけなかった。ただただ、帝光中バスケ部という看板に傷をつけたくないが為に。

「まさかバスケ続けてるなんて思ってなかったよ」
「それは俺も思ったっスけど」
「ショーゴくんも続けてるなら、続ける気なかったんだけどなぁ、バスケ」
「…っスね」
「笑えるよね。元カレなのに、怖いだなんて」

へらへらと笑う名前にイライラする。笑えるよね?何言ってんだ、冗談じゃない。ここまで笑えない冗談なんてあるんだろうか。彼女の視界に入らない位置で結んだ拳にぐっと力を込める。

「全然笑えないっスよ、それ」
「やだ、笑ってよ」
「無理っス。俺の好きな人の好きなものを奪うような奴なんスよ」
「な、何言ってんの黄瀬くん」
「俺、チューガクん時から名前のこと好きだったんス」

笑えないでしょ?と首を傾げると、眉をハの時にしてあわてる名前。あわてなくてもいい、そんな簡単に返事がもらえて納得するような想いではないのだ。「ごめん」と紡ぎそうになる名前の口を手で押さえ、にっこりと微笑む。

「俺の大切なものを奪ったくせに、また奪おうとしてるショーゴくんの事、許せないんスよね」
「絶対ぇ勝つから、観ててほしいっス」
「もう二度とバスケが嫌いだなんて言わせないし、怖い思いもさせない」

「返事はそれからで。」 そう告げると、彼女はこくりと頷いた。

さてさて、少しばかり痛む足にはちょいとばかり無茶していただきましょうか。この試合だけは負けるわけにはいかないのだ。自分のためにも、仲間のためにも、彼女のためにも。




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170Qの黄瀬くんめっちゃかっこよかったです。
しびれました、えぇ。
とくにパイロット黄瀬涼太が。
120626
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