「あ、和成!」

君に呼ばれる自分の名前が、こんなにも愛しくて。手を上げてこちらに来いと諭す彼女に答えるように、俺も小走りでそこに向かう。今日はデート日和。日差しは眩しく、暖かい。・・・太陽は未だ、俺の味方をしてくれているようだ。

「5分遅刻ー!」
「・・・、マジで?」
「まじまじ。よって今日は全部和成のおごりね!   ・・・てのは嘘で。走ってきてくれてありがとう。お疲れさまってことで、はい。ジュース」

にぱっ。彼女の笑顔にはぴったりの効果音で。その笑顔から差し出された缶ジュースを手に取り、マジかよーと呟くと、彼女は悪戯っ子のように笑い、ビックリした?なんて聞いてくる。・・・参ったな。名前にはやっぱり(というのが一番無難な表現だろう)勝てない。怒ったかと思うと、目に涙を溜めて。泣くのか?なんて構えてると、笑い出す。まったくこの子の百面相にはお手上げだ。そんなところも好きだ・・・なんて俺は確実に重病患者だ。今のところ治療法は名前が隣にいることだろう。(それ以外考えられないけど)

「ねね、今日は新しく出来たお店に行こうよ!」
「あー、名前が前に言ってた雑貨屋?」
「そう!でね、ペアカップ買って・・・みたいかな、と」

俯きながら、足元の石ころを蹴る。そっと、ばれないように顔を覗いてみれば、耳まで真っ赤。慣れない単語を口に出して、相当恥ずかしかったんだろう。(現にペアカップって、重いよね。なに口走ってんだろ、私!とかぶつぶつ言ってる)そんな仕草が可愛くて、くくっと喉の奥で笑えば、ほんのりとまだ赤の顔をこちらに向けてむくっと膨れる名前。(かわいー)(・・・って俺、やっぱ重症じゃん)

「な、なに笑ってんのよ!」
「ごめんごめん」
「もー・・・」
「ごめんって!(だから叩くなっての)」
「高尾さんちの和成くんは意地悪ですね」
「はいはい。今日はそれね」
「何か流されてる気するんだけど・・・って、『今日は』?」
「ま、そのうちもっといいもん買ってやるよ」
「え?何々!?」
「な・い・しょ」
はーー?!という彼女の声を後手に聞きながら、俺の足取りは最高潮に軽かった。



(そんじゃペアリングは次の記念日に、なんてね)
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