きっと目の前の彼女の眼差しも、心も、汚れきった俺には勿体なかったんだ。

ぷかぷかと浮かぶタバコの煙を視界の端に捉えながら、これからをどう過ごそうかと考える。妙に身体が怠い。これは情事後の独特の倦怠感とでも言えばいいのだろうか。シャワーを浴びる音をBGMに目を伏せ、大きく煙を吐く。


「青峰くんが好きなんです」

そういった名前は頬も耳も真っ赤に染まっていて、久しぶりに胸の高鳴りを感じた。今ならば、いまの俺ならば、この子だけを抱き締めて生きていけるかもしれない。そう思っていたのは本当だし、今も何処かではそういう考えも無いことは無い。

ただその決心は脆くも崩れ去ってしまって。

ついさっきまで俺の上では誰だかよく覚えてない女が腰を振っていて。なんとなくぼんやりとそこ風景を眺めながら、名前への気持ちが薄汚れていくのがわかった。
あの日、軽蔑した元カノと同じ事やって何してるんだか。情けないと思う反面、何も感じない自分がいて。あの時は泣きながら謝るあいつに「きたねぇ」と突き放したのも自分で。間違いなく、今の俺はキタナイ。

シャワーを浴び終わったのだろうか。一夜を過ごした女が「大輝くん」と俺を呼ぶ。そういえば名前は俺の事を名前で呼んだ事はあっただろうか。ダメだ、思い出せない。


「そろそろ彼女ちゃん来ちゃうんじゃない?」
「かもしれねぇな」


チカチカと光る携帯を尻目に、キスを強請った女へ唇を近付ける。名前はもうすぐそこだ。どうせサヨナラするなら、最低な俺でいたい…なんて馬鹿げてるだろうか。あゝ、このキスが終わったら名前になんて話そうか。



(僕の心はあの日に死んでしまいました)



「青峰くん、いるー?」

何時もと変わらない、鈴を鳴らしたような名前の声がする。きっと彼女はこれからあの日の俺と同じ気分を味わうのだろう。
−− もう人の事言えないね。
そうだな、謝んなきゃなんねぇな。お前にも、名前にも。


−−−−−
1000hits、青峰くんです
私の中の彼はなんていうか
爛れた恋愛が似合う、気がする

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浮ついた気持ち/b a c k n u m b e r
120625
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