いつもと変わらない帰り道、いつもと変わらない手の平の温もり。ぶらぶらと振り子のように振れるそれには、いったいどれだけの想いが詰まっているのだろう。どちらが重いんだろう。きっと彼女じゃなくて、自分に大きく傾くんだろうな。それくらい、好きだから。
 空は藍色と橙色が綺麗にまじり、それは鮮やかなグラデーションを描いていた。隣の彼女も同様に空を見上げたのだろう。ふと盗み見た彼女の瞳は、ちかちかと灯し出した街灯が映り込んで、キラキラと輝いている。

「あっ」

 小さな彼女の言葉。何かを見つけたような、そんな台詞にどうしたのかと問えば、目尻を緩ませた笑顔で答える。

「一番星、見ぃつけた」

 軽快なリズムに乗った台詞だった。幼い頃、よく口にしていたからか、妙に懐かしい気分になる。彼女の細い指先は空へ向かって、彼処に一番星があるのだと示した。

「私ね、流れ星よりも一番星にお願いごとするんだ」

 ふーんと興味無さげに漏れた声に、彼女ががぶりと反論する。そんなこと言ったって、流れ星のような希少性も無ければ偶然性も無いし、奇跡が起こるような気分にもならない。そもそもそんなロマンチスト思考を持ち合わせていないのだ。

「涼太は意外とロマンチストじゃん」
「どのへんが」
「いろいろと」
「いろいろと、ですか」

 彼女の言葉に納得いったような、そうでもないような、どちらとも取れるしどちらとも取れない曖昧な相槌をうつ。ほぼ百パーセントの確率で頭上に浮かぶ一番星は、大抵が金星だと何処かで誰かが言っていたような。月のすぐ側で一際輝きを放っている。
 宵の明星、だっただろうか。決して良いとは言いがたい己の脳をフル回転させてみるも、答えは一向に出て来なかった。そもそも答えなんて必要ないのかもしれない。

「じゃあオレもお願いしておこうかな」
「真似っ子どんどん」
「そういう懐かしいネタ盛り込むの禁止」

 くつくつと笑う彼女の声につられて、小さな笑いがこみ上げる。幸せという形ないものが掴めるのだとしたら、今この瞬間に掴んでいるのかもしれない。
 これからも涼太と一緒にいれますように。伏し目がちに彼女がつぶやいたお願いに便乗するように、心のなかで願い事を唱えた。

「何をお願いしたの」
「言わない」
「えー、教え合いっこしようよ」
「嫌だし、オレ、美南のお願いごと知ってるし」

 なにそれ、ずるいと非難の声をあげた彼女が、自由の利く方の手でぽかすかと肩のあたりを殴ってくる。痛い痛いと声を上げて笑えば、彼女の目元も緩くカーブを描くのだ。
 幸せだな、幸せだね。口には出来ないけれど、きっとお互いが想い合っている言葉だろう。その証拠に、ほら。彼女の口元が幸せそうに緩んだ。

うどん様リクエスト/130812
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