それなりに仲のいいクラスメイトだと思っていた。のは、自分だけではないと思っていた。

「え? 小堀ってバスケ部だったんだ」

 あいつらに比べたら、実績はないようなもんだが、まさか知られていないとは思っていなかった。
 顎肘をつきながら会話をしていたのに、思わずズルリと芸人もびっくりな反応を見せるはめになってしまった。

「知らなかったんだ」
「え、もしかして有名?」
「わりと」
「わー…、バスケとか全然興味なくって」

 申し訳無さそうな彼女の瞳がゆっくりと伏せられていく。割りと仲がいいっていうのは嘘じゃない。更に言ってしまえば、クラスメイト、友人、それ以上の関係になりたいとも思っている。
 彼女はバスケに興味がないらしい。じゃあ、興味が持てるように仕向ければいいじゃないか。欲を言えば、自分を見てくれるように。

「じゃあさ、今度試合観に来てみたら」
「えー」
「案外楽しいかもよ」

 そう言って背中を押して上げれば、彼女は首を縦に降るほかないだろう。だからほら、ちょっとだけ困ったような顔をして「いってみようかな」と笑うのだ。
 絶対に退屈させない自信はある。まあ、オレが退屈させないというよりは、うちのチームがと表現すべきなのだろう。悲しい話だが、オレだけじゃ彼女を退屈させないプレイは出来るとは言い難い。それでも彼女が観に来てくれるなら、それだけで。


▽ △


 その日はとうとうやってきた。いったいどれだけこの日を待ち望んだことか。自然と胸が踊る感覚に、ただの試合とは違う緊張感が体を襲った。心臓が早鐘を打つというのは、こういう時に使うフレーズなのだろう。さっきから馬鹿みたいに高鳴っている。
 気持ちを落ち着けるために、何度か大きな呼吸を繰り返す。森山じゃないが、どうしても観客席が気になって、そちらにばかり目が行ってしまう。無事に着いただろうか。迷いはしなかっただろうか。…小さな子どもでもあるまいし、無駄な心配だろう。思わず自嘲めいた笑みを零した時、「あっ」という森山の驚いた声が聞こえた。振り向いた時に見てしまった顔は、なぜだか頬を赤らめていて、妙な胸騒ぎがする。

「ほらほらほら、あそこ! すげー可愛い…オレ、今日はあの子のためにプレイする」
「あ? うちのために試合しろ! …んあ?」
「なんだ? 笠松もあの子の事が気になるのか? ダメだぞ〜、あの子はオレが」
「んなこと言ってねえ! あの顔、どっかで見たことあんだよな…」

 笠松の一言で確信した。ちゃんと着いたんだな。森山じゃないけれど、今日だけは彼女のためにプレイさせてもらうとするか。
 難しい顔をしたままの二人の間に割って入る。二人の視線を探るような素振りを見せて、彼女だけを必死に探す。視界に現れたのは、いつも学校で見かける制服姿とは違って、いつも以上に女性らしい格好をした彼女。

「あー、あの子?」
「そうそう、あの子! …って、小堀?」

 どうやら向こうも向こうで、オレを探してくれているらしい。さっきから視線があちこちにさ迷っている。可愛らしいな、と思って見ていれば、ようやく彼女の瞳がこちらを捉えたらしい。馬鹿だな、そんなホッとした顔しなくてもいいじゃないか。

「森山、あの子はダメだぞ」
「え?」
「彼女はオレが狙ってるから」



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