星屑のワルツ。ステップを踏むように君の影を追う。時折心配そうに振り向く姿が街灯に照らされて、儚く揺れる。ゆらり、ゆらり。君は私のことを何処かに消えちゃいそうだと笑ったけれど、君のほうがよっぽど何処かに消えてしまいそうだと私は考える。
 空に浮かぶは北斗七星。あの星とあの星を繋げば、私はきっと道に迷うことなんてないわ。つい数時間前に見たプラネタリウムの受け売りを、一緒に見たはずの彼に嬉々として伝える。もちろん彼は「オレも一緒に見た」と呆れ返った。
 そうやって呆れる姿も、私のペースに合わせて歩く姿も大好きだ。普段はツンデレだとか冷たいとか、他人に興味無さそうだとか。いろいろ言われてる彼だけれど、私にとってはたくさんの大好きが詰まった宝箱のような人だ。
 エメラルドみたいな瞳は透明なガラスの向こう側に。私を捉えて離さないくせに、やれあっちに行くな、やれそっちはダメだ。私は君のグリーンに捕まったままだよ。今だって心配そうに上を向いて星空を眺めたまま歩く私を見つめているくせに。
 少しだけ足を早めて、彼の隣に並ぶ。星を眺めるほどではないけれど、くいっと上向かせた場所にある彼の瞳はやっぱり綺麗なエメラルドグリーン。いつか私が高価なジュエリーが買えるような素敵なレディーになったなら、一番に最初に買うのはエメラルドのペンダントって決めてるの。だってだって、君に繋がれたみたいでしょ? エメラルドの首輪で。君の瞳は常に私から離れないのよ。
 でも今はそんなお金もないし、宝石のエメラルドよりも綺麗なエメラルドを手にしている。隣に並んだ際に、彼の絹よりもすべすべとしたオトコノコらしい手を掬い取る。この手だって私のものなんだ。確かめるように、ぎゅっと握ってはぱっとはなすを繰り返していると、頭上から優しい声が降ってきた。
「何をしているんだ」
「しんたろくんの手をにぎにぎしています」
「見ればわかる」
「じゃーなんで聞くのー」
 その間も私はぎゅっぎゅっと手を握って、彼の存在を確かめる。このおっきな手が私を掴んで離さない? ううん、私が掴んで離さない。
 彼の眼鏡に私が映り込む。街灯がジュエリーみたいに輝いて、キラキラと私を飾っている。彼の眼鏡のレンズは私専用の額縁になる。その奥のエメラルドに捉えられて、捉えられた私は額縁に収められる。私は緑間美術館の看板娘。
「名前の行動にはいつも驚かされるのだよ」
「えー?」
「お前はオレのことをよくわかってる」
 一方的に握っていた手がぐっと握り返される。そうする相手なんて、たった一人しかいない。痛痒いほどの力がくすぐったくて、心臓の奥の方までくすぐったくなる感覚に襲われた。これ何って言うんだけ、あれ…私絶対知ってるはずなのに。
「よくわかってるって?」
「以心伝心ってやつなのだよ」
 そういうと彼は私の手をぎゅーっと握りしめる。つまりは彼も手を繋ぎたいと思っていてくれたという事だ。それがなんだか嬉しくて私はスキップで歩を進めだす。となると必然的に彼は引っ張られるようになるわけで。バランスをくずした彼は「っとと」と小さな声を漏らす。190センチの大男が私みたいな小娘に揺らされちゃうなんて。もっともっと私にだけ揺らされたらいいのに。
「帰ったらこの前買ったシャンパン飲もっ」
「夜も遅い。帰ったらすぐに寝るのだよ」
「いーや、晩酌しよっ」
 星屑のワルツ。二つの影がくるりとステップを踏む。繋がれた手のひらからリズムを奏でて、君は私をリードする。今宵は月が見えませんから、私が消える心配もありませんよ。例え月が見えたとしても、私は君を離しませんよ。小指から垂れる赤い糸は君の小指にから抜けないように、きつく結んでおきます。


にじむ夜に魔法を/130310
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