※黄→桃要素があります。


 恋をする瞳というのは、どうしてだか無性に輝いていた。熱を帯びているとでもいうのだろうか。その瞳はゆっくりと獲物探し己の視界に捉えたまま、すうっと見つめ続ける。そうした何かに焦がれるということは、自然と目が追ってしまう事だと教えられるような気がした。
 私の瞳は常に黄色い彼を追う。それを教え込まれ、義務づられたみたいに律儀に、何をするにも彼を探す。一分一秒、一挙一動を見逃さないように。もしかしたら彼のために生まれた双眸だったのかもしれない。そう思ってしまうくらいに彼の存在を枯渇し、常に求めていた。
 だからこそ、私の恋い焦がれた瞳は彼の矢印の方向を知ってしまう。それは時に私の心を抉り、それは時に私の瞳に膜を張る。とても刺激的で、お世辞にも優しいとはいえない感情だった。

 この恋に交通事故は起こらない。正面衝突なんてもっての外。100%と言っても過言ではないくらいにあり得ない。曲がり角なんて存在しない。ただの真っ直ぐな高速道路だったらよかった。けれどもここは制限速度40kmで、緩やかなカーブが続く私道らしい。近い未来は簡単に見通せるけど、その先はもっと進んで、体を傾けてみないとわからない。だけど終わりもやってこない。道は必ず続いているのだと悪魔は囁き続けた。
「きーちゃん」
「…っ、なに」
「って呼ばれてるんだね」
 不自然に彼の口元が歪む。うれしさなんて微塵もない、不快感を表した口端が妙に現実的で、くらり眩暈が襲ってきた。
 私が呼んだって、せいぜい肩が不機嫌そうに跳ね上がるだけなのに。あの子が呼んだら、それはそれは特別なフレーズになる。彼の笑顔を作る魔法の呪文になる。ズルい、なんて感情はお門違いなのに、胸に沈んだ黒い塊はそれがしっくりくるのだ。
 私はその塊が何と呼ばれる感情なのか知っているのに、そこにそっと鍵を掛ける。この感情は漏れだしちゃいけないものだ。世間はこれを『嫉妬』と呼んだ。ジェラシー、か。でも私が知っているのは、それ以上に醜くて汚くて淀んだ感情。
「アンタがそう呼ぶの禁止」
「なんでよ」
「特別なの、それは」
 大事なものを噛み締めるみたいに彼が呟く。
 知ってるさ、そんなこと。私だってアンタが紡ぐたった数文字の私の名字が、たまに呼ばれる数文字の名前が。この世で1番輝かしい言葉に思えるのだから。
 少しだけ伏せた世界で「ごめんなさいね」と可愛げのない謝罪を告げる。しかし反応はない。それがまた悔しくて彼を見つめると、そこにはこの世で1番美しくて、私が大嫌いな横顔があった。
 恋焦がれてるみたいな顔しないで。ああもう、泣きそうだ。
 
 恋をする目というのは、何故だか輝いていた。長いまつげがどれだけ相手を想っているのか訴えかけた。ゆっくりと弧を描く瞼がどれだけ相手が大切なのかを語りかけた。だけど私は知っている。彼の山吹色のガラス玉に彼女が映り込む限り、私がその対象になれない事も。彼と彼女がもうすぐ事故にあってしまう事も。私の恋い焦がれた瞳は知っている。
 だから神様、もう少しだけ。何も知らないふりして彼の横に立っていることを許してください。もう少しだけ、彼の不幸せを願う私を許してください。

前略、あの秋波は彼女のものだそうです。/130123
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