※黄瀬涼太がゲスいです。


 誰だ、誰だ誰だ! 黄瀬涼太は顔も性格もいいって言った人間は! まことしやかに囁かれていた黄瀬涼太は嘘でしかなかったのだ。くそったれ。
 私が勝手に黄瀬涼太像を作り上げていたと言われてしまえばそこまでだ。黄瀬涼太は誰にでも優しい。ルックスだって最高にかっこよくて、スポーツ万能。勉強だってそこそこ出来る。可愛いとか地味だとか綺麗とか不細工とか、そんなの関係なくて、誰にでも別け隔てなく接するのが黄瀬涼太だと思っていた。
 でもそれは私のなかの黄瀬涼太でしかなかった。分かっていたけれど悔しくて、噛み締めた奥歯がギリィっと音を立てた。泣き出しそうになる胸は気管をぐっと締め付けられたみたいに苦しい。でも、絶対に泣くもんか。あんな糞野郎のために泣いてやるもんか。そう思って目の端から零れ落ちそうになった涙を飲み込む。あんな奴に泣かされてたまるもんか。

 全てを鵜呑みにした私がダメだったのか。特別とか、そういうの関係ないよ。そう囁きかけるような笑顔を今日も黄瀬涼太は振りまいていた。だからつい、彼の下駄箱に手紙を放って、胸の中に渦巻いた感情を吐露してしまったのだ。
「えっと、私…黄瀬くんの事が好きです」
「…へ」

 言ってしまった。思った時には、全身の熱が顔に集まってきた。まるでりんご飴みたいなような、着色料をふんだんに使ったような、刺激的な赤。スカートの襞を握りしめた手の平には、じっとりと不快な汗が滲んでいた。
「…冗談でしょ」
「じょ、」

 だから聞こえてきた声に、言葉に、不意をつかれたみたいな顔しか出来なかった。
「いくらなんでもさ、いい方向に考えすぎっしょ…」
「黄瀬く、」
「面倒くせえから誰にでも笑ってたんスけど、こういう事もあるんスねー」

 目の前の彼はいつもみたいな、優しい笑顔をシテイルのに、言葉は酷く冷たい。
「ごめんね、気持ちには答えらんないわ」
「う、うん…なんとなくわかってたけど、よかったら友達に」
「は?」

 馬鹿にしたみたいな、そんな音色だなって思った。嘲笑うって言葉はこういう態度にしっくり来るんだなって思った。
「ちょっと、そういうの…無理だわ」
「でも、」
「オレね、ブスが嫌いなんスよ」
「...え?」
「だーかーらー、アンタみたいなブスは嫌いなの。友達になるとかまっぴらなわけ」

 ごめんね。そういった黄瀬涼太は、私が今まで見てきた中で最高に綺麗な笑顔を作っていた。
 かーっとさっきとは違う意味で頬が熱くなる。もちろんその熱が意味するのは羞恥。恥ずかしい。そして、悔しい。別に人より秀でた顔をしていると思ったことは無いけれど、自分のことを卑下するほど不細工だと思ったことはなかった。しかしよりによって想い人からストレートに「ブス」というお言葉を頂戴してしまった。現実として受け入れなければならないのに、どうしても喉につっかえて上手く飲み下せない。そうやって現実を現実として受け入れきれない自分にも、目の前でへらりと笑ってこの場を去ろうとする相手にも、腸が煮えくり返りそうになるくらいの苛立ちが生まれた。

「絶対に可愛くなってやる」
 握りこんだ手の平はうっ血し始めていた。くそったれ。この際プライドもへったくれもない。ただ、ただあの黄瀬涼太に一泡吹かせてやりたい。思いついたが吉日だと言わんばかりの私の足取りは、とある空き教室に向かう。ポケットに突っ込んだままだった携帯だって、ムカムカとする気持ちそのままに取り出せば、スカートのプリーツが不恰好に揺れた。
 携帯の電話帳から本当であれば頼りたくない人間の名前を呼び出す。だけどプライドとかそんなもの、犬にだってくれてやる。
「もしもし、和成くん? うん、そう、私、名前。あのさ、今度の日曜日なんだけどね…―――」
 黄瀬涼太。つい数分前まで私にとって愛しくて眩しくて好いて好いて仕方ない相手でした。今となっては憎っくき女の敵です。私のことをブスだと罵ったこと、絶対後悔させてやります。
 
(130120)
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